世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

トランプ氏「ゴラン高原の主権」発言の衝撃度

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は3月18日から24日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 習主席が学校での思想政治教育強化を支持(18日)。韓国統計庁が昨年の婚姻・離婚統計を発表。婚姻数、出生数過去最低に(20日)。トランプ大統領、ゴラン高原の主権はイスラエルであると認めるべきと表明(21日)。韓国統一省、北朝鮮が南北共同連絡事務所から撤収したと発表(22日)。中国とイタリア、「一帯一路」協力に関する覚書に署名(23日)、などです。

 今回はゴラン高原の主権についてのトランプ氏の発言を取り上げます。
 トランプ大統領は3月21日、イスラエルが占領しているゴラン高原について、「52年を経て、イスラエルの主権を完全に認めるべき時が来た」と表明しました。
 米国務省の年次報告書でも、昨年まではゴラン高原を「占領下」としていましたが、今月発表された報告書では「支配下」に表記が変更され、政策転換の可能性が取り沙汰されていたのです。

 ゴラン高原はイスラエル北部のガリラヤ湖からシリア南部に広がる高原で、シリア領です。標高300~1200mの丘陵地帯で、広さは約1800㎢で香川県ほどになります。
 1967年に勃発した第三次中東戦争の時、ゴラン高原をイスラエルが占領し、81年には併合を宣言しました。しかし国連(国際連合)の安全保障理事会は、併合を無効にする決議を採択し、米国を含む国際社会は併合を承認しない立場を取ってきたのです。

 トランプ氏の表明に対して米国内からも批判の声が上がっています。
 外交問題評議会のリチャード・ハース会長は「国連安保理決議に違反している」と批判しました。(読売新聞、3月23日)

 シリア、エジプト、ロシアなどから強い抗議の声が上がっていますが、トランプ氏の狙いはどこにあるのでしょうか。
 予測されるのは2点。一つは中東政策で親イスラエルの立場を改めて表明することによって、2020年の大統領選挙に向けてキリスト教福音派やユダヤ系団体の支持を集めること。もう一つは、総選挙を3週間後に控え、汚職疑惑で厳しい立場に立たされている盟友ネタニヤフ氏を支援することです。

 しかし、大きな問題が残ります。「武力による現状変更を認めない」とする国連の平和構築ルールを米国が破ることになるからです。衝撃はこれから広がっていくでしょう。
 国連の刷新か世界の無秩序化か、の分岐点に立っているのかもしれません。