世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

危険水域の日韓関係

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 3月11日から17日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 麻生太郎大臣が元徴用工訴訟問題を巡り韓国への報復措置検討と発言(3月12日)。日本政府が北朝鮮非難決議案の見送り表明(13日)。「韓国ギャラップ」の世論調査で文在寅大統領不支持46%で支持44%を上回る(15日)。ニュージーランド・クライストチャーチ、モスクで銃乱射49人死亡(15日)、などです。

 今回は、厳しさが増している日韓関係を取り上げます。
 3月12日、衆議院財務金融委員会での麻生太郎副総理兼財務大臣の発言が注目されました。日本側の報復措置として、韓国に対する送金やビザ発行停止にも言及するものでした。

 麻生氏は、「そういったものになる前の所で交渉しており、きちんとした対応をやっていかないといけない」とし、「報復措置が実施されないように努力している」とも述べていますが、その一方で、「これ以上、事が進んで実害がもっと出てくるということになってくると別の段階になる」と付け加えており、事態の推移を見ながら、日本側が対応の強度を高めるというものだったのです。

 時事通信は3月9日、元徴用工被害訴訟の原告側が日本被告企業(新日鐵住金や三菱重工など)の韓国内差し押さえ資産を売却すれば、日本政府が関税引き上げなどで正面から対抗することにしたと報じていました。

 その場合には、①報復関税 ②一部の日本製品の供給停止 ③ビザ発行制限など、韓国に対する100前後の報復措置目録を用意したというのです。

 元徴用工訴訟の原告の代理人弁護士や支援者は2月15日午後、東京・丸の内の新日鐵住金本社を訪れています。
 弁護団は面会を求めましたが、同社は応じませんでした。その時、徴用工側の林宰成弁護士は、既に差し押さえている韓国国内の同社資産を売却するなど「現金化の手続きを始める」と記者団に明らかにしたのです。

 現時点では、韓国側弁護団は新日鐵住金が保有するポスコとの合弁会社の株式の差し押さえ手続きまで進めましたが、現金化のための競売手続きは踏み込んでいません。現金化された時、日本の対応強化=対抗措置が実行されるということです。

 3月14日、ソウルで日韓の外交部局長級会談が開催されました。
 外務省の金杉憲治アジア大洋州局長と金容吉韓国外交部東北アジア局長による会談でしたが、進展はなく、平行線で終わりました。

 日本政府は韓国政府に対して日韓請求権協定に基づく協議に応じるように求めている(1月9日)のですが、韓国側は「綿密に検討する」と答えるのみです。
 日本側の本気度が伝わっていないとの指摘もあります。危険水域に入ってきました。