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通いはじめる親子の心 5
子供は「育つ」もの

 アプリで読む光言社書籍シリーズ第6弾、『通いはじめる親子の心〜子供の気持ちに「共感」する』を毎週火曜日配信(予定)でお届けしています。

多田 聰夫・著

(光言社・刊『通いはじめる親子の心〜子供の気持ちに「共感」する』より)

第一章 子供は「育つ」もの

子供は「育つ」もの
 教育は「教」と「育」の字から成っています。「教える」という意味合いと、「育てる」という意味合いがあるのです。これは、教える側からの表現ですが、もう一つ、子供の側からは、「教わる」、「育つ」という表現もあります。
 
 英語の「educate」には、「引き出す」という意味があります。子供の持つ才能、可能性を見いだして、引き出してあげるのが教育であるという考えです。子供は「種」を持っており、それを育てる、育むのです。子供が育つのを助けるわけです。ところが、日本では「教える」ことが中心になっているように感じます。

 学校では、算数や国語、理科などの教科を、先生が授業で子供たちに教えます。「教える」ことが中心になっています。先生は教科について深い知識があり、教え方を知っています。

 では、家庭ではどうでしょうか。子供が「育つ」環境をどのようにしてつくるかということが中心になります。明確に分けることはできませんが、学校は「教える」ことに主な責任があり、家庭は子供が「育つ」ことに責任があるのだと思います。

 でも、家庭でも、「教える」ことが中心になっているのではないでしょうか。

 親は子供に比べて知識があり、失敗や成功の体験をたくさん持っています。それで、「教えたい」「教えなければいけない」と、どうしても思いがちです。その結果、子供に「教える」ことが中心になり、子供が「育つ」環境づくりは後回しになってしまうのです。

 親が教えると、子供は何でも教えてもらおうとする癖がつきやすくなります。依頼心が強くなります。結局、親が教えることで、子供は自分自身で考える力がつきにくくなってしまうわけです。

 親が子供に「教える」という場合、中心は親になります。教えることができれば、親は心が満たされるでしょう。ところが、子供が理解できないと、イライラして「分かったの?聞いているの!」と怒ってしまうのです。

 それに対して、子供が「育つ」という観点に立てば、中心は子供になります。よく「子供は、親の後ろ姿を見て育つ」と言います。実際、農家や自営業者などのように、家庭で親の働く姿を見て育った子供のほうが、親の働く姿を見ていない子供より、良く育つ場合が多いのです。家庭での親の生き方が子供の育つ環境をつくるのです。

 子供が良く「育つ」ためには、子供の心が愛情で満たされなければなりません。そのためには「愛情の伝え方」を学ぶ必要があります。

 親は子供に良くなってほしいと願い、子供の行動を変えようとします。教会に行かない子供を教会に行かせようとしたり、勉強をせずにテレビを見たり、ゲームばかりしている子供を勉強させようとします。しかし、子供はなかなか思うように行動を変えてくれません。そうすると、親は子供に対して怒るようになります。

 父と子の例を一つ紹介します。

 「息子が中学生のときでした。勉強せずに遊んでばかりいたので、『テレビやゲームばかりやっていて勉強しないと、駄目な人間になるぞ。親の気持ちが分からないのか!』と怒ったのです。

 すると息子が、『お父さんは自己満足で怒っているだろう』と言い返しました。『親をばかにしているのか』と声を荒げると、息子は『お父さんは怒ったから気が済んだろう。でも、怒られた僕の気持ちはどうなるの?』と言うのです。

 そのときはすぐには、子供が言ったことが理解できませんでした。あとでじっくり考えたとき、息子の言うとおり、『自己満足』だったと悟りました。子供は、親の動機をよく感じているのだということが分かりました」

 親は自分の気持ちをぶつけただけで、子供に何の良い影響も与えていなかったのです。子供への願いが、怒りとなったり、命令になったりして、子供に押しつけているのです。子供は親の言うことを聞くのが当たり前だ、親の言うことを聞くのが良い子で、聞かないのは悪い子だと考え、子供に対して悪い印象を持つようになってしまいます。

 子供の気持ちや意志を考慮せずに、自己満足に陥っていないか、よく注意しなければいけないのです。

 親の感想を紹介します。

親の感想:「子供たちに対して『教える』という立場で接していたことが多くあり、反省するばかりです。そのことに気付かせていただいたことを、感謝します。子供に変わるよう要求するのではなく、自分自身が変わることが大切であることを実感しました。きょうから実践していきたいです。また、家族で話し合いの場を持ちたいです」

親の感想:「私は、子供を『育てる』のではなく、いつも『教えて』いかなければという思いから言っていたことに気付かされました。『してあげなければ』、『教えてあげなければ』、『正してあげなければ』という思いから出発していたように思います」(続く)

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 次回は、「子供の気持ちを感じ取る」をお届けします。


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