2025.11.21 17:00

青少年事情と教育を考える 306
乳児の「利他の心」を育てるには
ナビゲーター:中田 孝誠
前回は、赤ちゃんには生まれながらにして、利他の心、善悪を見分ける心が備わっているという話を取り上げました。
もちろん、赤ちゃんが生まれつき持っているそのような心は芽生えといえるもので、肉体的な成長と共に自然に大きく育つというわけではありません。
だからこそ、親をはじめ周囲の大人との関わりや環境、教育が重要になります。

前回も紹介した『赤ちゃんは世界をどう学んでいくのか』(光文社新書、著者の奥村優子さんはNTTコミュニケーション科学基礎研究所主任研究員)によると、目に見えない存在を意識すると子供の道徳行動が促されることが報告されています。
例えばシールやお菓子などを他の子供に分けるという実験で、「神様が見ている」「閻魔(えんま)様が…」といった話をすると、子供はそうした存在を意識し、行動が変わることがあります。
得点に応じて報酬がもらえるボール投げゲームの実験でも、誰にも見られていない場合はルール違反をする子がいましたが、目に見えない魔法使いが見ていると教えた場合では、実際に大人が見ている場合と同様に、ルール違反が抑えられました。
では、こうした子供の心を育てていく上で、大人が意識すべきことは何でしょうか。
『赤ちゃんは…』によると、例えば子供を褒める言葉(能力よりも努力を褒める)も、子供の道徳的な行動を促すことが分かっています。
しかも他の子供への褒め言葉であっても、それを聞いた子供も道徳的な行動が促されるというのです。
こうしたことから考えると、親として意識したいことの一つは、子供の努力をほめること、そして神様の存在を意識できるようにすることではないでしょうか。
家庭教育はもちろん、現在は宗教教育が難しい学校教育でも、可能な限り取り上げてほしいところです。
奥村さんは、「人間が本来、利他的で道徳的な存在であることが明らかになっていけば、私たちの社会は今よりも確実に、よくなるように思います」と述べています。
子育ては大変ですが、社会にとってこれほど価値あるものはないともいえます。