愛の知恵袋 45
”無縁の人”にならない生き方

(APTF『真の家庭』155号[9月]より)

松本雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

”普通の人”が縁を失ってゆく時代

 ある男性からお電話をいただきました。「テレビで”無縁死”という番組を見たんですが、まるで自分の将来の姿をみるようで、落ち込んでしまいました。惨めな晩年にならないためには、どうしたらよいのでしょうか?」というお話でした。この男性は60代で、既に会社を退職していますが、妻に先立たれて一人暮らしをしています。息子が一人いるけれども、親子関係が疎遠で、もう何年も連絡すらないということでした。

 この方が見られたテレビというのは、2010年1月31日に放映されたNHKスペシャル「無縁社会」と、その一連の番組のことだと思われます。同取材班の調査によると、”無縁死”、つまり、誰にも最期を看取られることなく亡くなった人で、身元不明や、遺骨の引き取り手がないために自治体で「行旅(こうりょ)死亡人」として処理されている人が、年間32,000人にのぼるといいます。

 今、日本では”未婚化””少子化”に加えて、”単身化”が急速に進んでいます。一人で暮らす単身世帯は年々増えており、20年後には全世帯の40%に達すると予想されています。無縁死になるような人は、放浪者や、天涯孤独の特殊な人だろうと思われがちです。しかし、追跡調査の結果は意外でした。その多くは、生前、実社会で働き、結婚もしたことのある”普通の人”であるというのです。つまり、無縁死というのは決して他人事ではないということです。日本では、少子高齢化と若者の都市集中によって、地方では老人の一人暮らしが増えていることは周知の通りですが、今では、大都市や地方の都市部で無縁死が増えているのです。

なぜ”無縁化”が進んでいるのか

 無縁になる人は、身寄りのない人か、あっても交流せずに生きてきた人かも知れませんが、個人の生き方という問題を別にしても、孤立化しやすい現実的要因は幾つもあります。そのひとつが、”地縁の希薄化”です。

 近年ほとんどの人達が住んでいる団地や、アパート、マンションでは、「周りとの付き合いに気を遣わずに済む」という気楽さの反面、隣人との交流がほとんどありません。

 次の要因は、”血縁の疎遠化”です。いざという時の最後の頼みの綱はやはり”家族”です。しかし、現代では、その家族も子供が成長すれば遠隔地の大学や会社に行き、結局、離ればなれに暮らすというケースが増えています。そして、親戚との交流も世代を追うごとに希薄になっています。

 もう一つ、”社縁の希薄化”という要因があります。最近は、正社員が減り、派遣社員、パート社員が増えており、さらに不況の影響もあって、自分の生き残りが精一杯で、同僚の中に親しい友人もできにくいという声が聞かれます。また、現役時代は親しかった同僚も、退職後はパッタリと行き来がなくなってしまうという傾向があり、これら全ての要因が”無縁化”に拍車をかけています。

”縁”は自分で作り出す

 人は一人では幸せになれません。「喜び」も「楽しみ」も自分一人では生じません。人との交わりによって助けられ、生きる力も湧いてきます。”無縁の人”にならない秘訣は、少しでも若いうちから、意識して人との交わりをつくっておくことです。

 秘訣の第一は、”きちんと結婚をして家族を持つこと”です。夫婦仲、親子仲を大切にして、一生涯親密な家族関係を維持しましょう。

 第二は、”特定の家庭と親しくしておくこと”です。

 ご近所と親戚、そのいずれも、じっと待っているだけでは、付き合いは生まれてきません。「自分で親しい相手をつくる」という意識を持つのです。とはいっても、全ての相手と親しく交わるということは現実的には無理です。そこで、多くの相手の中から「この人とは、特に親しく家族付き合いをさせてもらおう」という家庭を選ぶのです。つまり、ご近所から1〜2軒、親戚から1〜2軒を選んで、その家族と親密に交流するように努力するのです。きっかけは、野菜、果物、菓子などを「お裾分けですが…」といって差し上げて、物のやりとりから縁をつくっていくのも良い方法です。

 第三は、”何でも話せる友達をつくること”です。現在、会社や団体に所属している人はその同僚の中に、また、既に退職しているなら、老人クラブや婦人会、あるいは趣味やボランティアの仲間の中から、一人でも二人でも良いから、”特に仲のよい友達”を作ることです。たとえ一人暮らしになり、どんな所に引っ越していっても、「交わりは自分で作り出す」という信念をもって生きれば、決して”無縁の人”にはなりません。

困った時は助けを求めよう

 最後にもう一つ考えておきたいのは、「人に迷惑をかけてはいけない」という日本人の倫理観のことです。立派な信念なのですが、裏目に出るときもあります。無縁死になる人達の中には、困窮していながら、結局最後まで遠慮して行政にも隣人にも助けを求めなかった人達が少なくありません。

 私が大切にしている亡き母の教訓があります。「本当に困った時は、遠慮なく人の世話になりなさい。それを一生忘れずに恩返しをすればよい」という言葉でした。困った時に助けを求めることは、決して恥ずかしいことではありません。思いっきり世話になってもよいのです。