世界はどこに向かうのか 369
「ガザ」紛争終結へ、トランプ和平案でイスラエルと合意

2025.10.07 17:00

世界はどこに向かうのか
～情報分析者の視点～

「ガザ」紛争終結へ、トランプ和平案でイスラエルと合意

渡邊芳雄（国際平和研究所所長）

　今回は、9月29日から10月5日までを振り返ります。

　この間、以下のような出来事がありました。

　トランプ政権の和平案、ネタニヤフ首相と「合意」（9月29日）。日韓首脳会談、関係安定発展で一致（30日）。米政府機関の一部閉鎖、つなぎ予算不成立（30日）。自民新総裁に高市早苗氏、初の女性首相誕生へ（10月4日）。イスラエルとハマスの和平協議、10月6日にエジプトで、などです。

　トランプ大統領は9月29日、ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相と会談しました。
　会談後、米国側が提示した20項目の停戦・和平案にネタニヤフ氏が合意したと発表したのです。

　米国、イスラエル両首脳による主な合意事項は以下のとおりです。

【停戦・人質解放】
＊イスラエルとイスラム主義組織ハマスが計画に合意すれば戦闘は直ちに終結。

＊停戦後、イスラエル軍は段階的にガザから撤退。武装解除などを条件にハマスのメンバーに恩赦。

＊イスラエルが合意を受け入れた後72時間以内にハマスは人質全員を解放。イスラエルはパレスチナ人の収監者を釈放。

【戦後統治】
＊パレスチナ人らで構成する組織が担当。トランプ大統領が議長の国際組織を監督。トニー・ブレア元英国首相もメンバーに。

＊治安維持に向け、米国やアラブ諸国などが「国際安定化部隊」を創設。

＊経済活性化に向け、「トランプ経済開発計画」を策定し、ガザを再建する。ガザ住民の強制退去を求めない。

＊イスラエルはガザを占領も併合もしない。ハマスはガザの統治に関与しない。

　トランプ政権は、第1次政権において中東政策の中心をイスラエルに置いてきました。エルサレムをイスラエルの首都と認定し、同国が第3次中東戦争で占領したゴラン高原の主権を認めることなどを公表しています。

　しかし政権2期目に入ってからは、その中心を湾岸地域に移していったのです。
　5月には中東を歴訪してカタールなど湾岸諸国と巨額の経済協力合意を締結していますが、その外遊日程にイスラエルを含めませんでした。

　9月上旬、イスラエルがハマス幹部を狙ってカタールの首都ドーハを空爆しましたが、その時米政権は、カタールがハマスとの交渉仲介役を担っていたため激怒しました。
　軍事手段に固執するネタニヤフ氏をガザ和平最大の障害と見るようになっていったのです。

　イスラエルの入植地拡大やパレスチナ住民排除を進めるヨルダン川西岸を併合することは「認めない」とも言明しました。
　ガザの人道危機の深まりの中で、イスラエルへの不満を漏らすようになっていたのです。

　これらの内容を背景に、もしイスラエルが今回の和平計画に同意しなければ、公然と批判を展開する予定だったのです。

　トランプ政権は、ネタニヤフ氏が計画実現を先延ばしできないように周到に準備を重ねました。

　9月下旬の国連総会出席に合わせて、アラブ・イスラム諸国の指導者を一堂に集めて計画への同意を事前に取り付けました。
　カタールとエジプトに加え、トルコなどアラブ・イスラム諸国8カ国から賛同を得たのです。

　トランプ氏は、かつて提示したガザ住民を強制退去させるという自身の案を撤回しています。さらにこのたびの和平案には、イスラエルが否定するパレスチナ国家樹立も視野に入れています。

　この和平案に向けて、ハマスも動き始めました。
　10月3日、米国が提案したパレスチナ自治区ガザの和平計画に対する回答を仲介国に提出し、ガザで拘束する人質全員の解放に同意したと発表したのです。
　さらに和平計画に沿って直ちに交渉に入る用意があるとしています。しかしその一方で、イスラエルや米国が求める「武装解除」への明確な言及は避けています。

　ハマスの発表を受けてトランプ氏は、イスラエルに対してガザへの攻撃の即時停止を要求しました。
　交渉仲介国のカタールが、エジプト、米国と協力して、協議継続に向けた取り組みを開始したことを明らかにしました。

　ハマスの回答を受けて、米国のスティーブン・ウィトコフ中東担当特使がエジプトに向かいました。
　和平案の合意に向けて動き始めましたが、多くの壁（ハマスの武装解除やイスラエル政権の強硬派の反対など）があります。
　注意深く動向を見ていきましょう。