facts_3分で社会を読み解く 86

ニューヨークで行われた信教の自由に関する国際会議(6)
中立的な宗教学者の不在

ナビゲーター:魚谷 俊輔

 去る81日から3日にかけて、米国・ニューヨーク市において、「宗教の自由に対する現代の脅威の根本原因を評価する」をテーマとする、第3HJI平和と公共リーダーシップ会議が開催された(「HIJ」とはHJ平和・公共リーダーシップ国際大学院のことで、かつての統一神学大学院を指します)。

 この会議の日本に関するセッションで筆者は、「日本における反統一教会運動」と題するプレゼンを行った。
 今回もその内容の続きである。

 日本における統一教会の問題で特異な点の一つは、本来なら統一教会に対して客観的な研究を行い、中立的な発言をする宗教学者がいないということである。
 その主たる原因は、先回説明したように、オウム真理教事件が日本の新宗教研究に残したトラウマにある。

 日本女子大の教授であった宗教学者の島田裕巳氏は、過去にオウム真理教に対して好意的な評価をしたということで、地下鉄サリン事件後に大学から休職処分を受け、最終的には辞職に追い込まれた。

 同じように、もし日本の宗教学者が統一教会に入り込んで情報提供してもらい、それをもとに統一教会について客観的な記述をしたら、「統一教会に対して好意的すぎる!」「統一教会の広告塔!」などと、反対勢力から一斉にバッシングを受けかねないので、宗教学者はうかつに手を出せないのである。

 日本では宗教学者にも「政治的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)」が要求され、そこには学問の自由や独立性は事実上存在しない。
 これがオウム真理教事件以降に日本における新宗教研究が事実上死滅してしまった大きな原因であった。
 あからさまに批判的な立場を取る以外に、物議を醸している新宗教を調査研究することを世間は許容しないのである。

 こうした状況の中で、物議を醸している新宗教団体と適切な距離を取ることが日本では大変難しくなっている。
 たとえ学問的には適切な距離を取って調査研究を行ったとしても、それを世間一般や反カルト主義者から「適切な距離である」と評価してもらうことが、日本社会においては難しいのだ。

 最後に、なぜ今、解散命令なのかについて考えてみたい。
 統一教会に対する反対運動は長年にわたって粘り強く行われ、統一教会の社会的評判を落とすことに成功してきた。
 しかし全国弁連が統一教会を解散させるべきであるとどんなに政府に要求しても、日本政府が統一教会を本気で解散させようとしたことはなかった。

 こうした状況を一変させたのは202278日に起きた安倍晋三元首相暗殺事件である。この事件が引き起こした一種のパニックによって、当時の岸田文雄首相が判断を誤り、解散命令請求に踏み切ったというのが直接的な原因である。
 しかしそこに至るには歴史的な背景があった。その中でも最も重要な要因は冷戦の終焉(しゅうえん)である。
 次回はそのことについて詳しく解説したい。


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