続・夫婦愛を育む 26
ある“親子”の物語

ナビゲーター:橘 幸世

 Blessed Lifeの人気エッセイスト、橘幸世さんによるエッセー「続・夫婦愛を育む」をお届けします

 本欄で何度か取り上げたミッチ・アルボム。“Finding Chika”(『チカ探し』)には彼自身の忘れられない体験がつづられています。

 元々スポーツライターだった彼の人生は、大学時代の恩師との再会によって一変します(参考:『モリー先生との火曜日』)。

 ベストセラー作家となり、やがて慈善事業にも取り組み、四つの孤児院を運営するようになります。
 2010年のハイチ大地震直後、救援に駆け付けたのを機に、現地の孤児院が五つ目として彼のケアの下に加わります。

 2013年、一人の少女がそこの一員になります。エネルギッシュで負けん気が強く、常にポジティブな3歳の少女チカ。
 彼女が5歳になったある日、ハイチのスタッフからミッチに連絡が入ります。チカの具合が悪い、こっちの医者では対処できない、と。

 ミッチはチカをアメリカに連れていきます。
 自宅に住まわせ、夫婦で身の回りの世話をし、大学病院で検査を受けさせると、現代医学では治癒のすべがない難病と宣告されます。
 言葉もろくに通じない、肌の色の違う少女を助けたい一心で、夫妻はさまざまな病院を当たります。

 効果的な治療の可能性が少しでもあれば、アメリカ国内のみならず、イギリスの病院にも問い合わせ、ドイツの病院にも連れていきます。
 もちろん、チカに保険はありません。費用は全てミッチの個人負担です。

 ある医師がミッチに尋ねます。
 「自分の子供でもないのに、どうしてここまでしてやっているのですか?」
 ミッチは驚いて一瞬言葉が出ません。
 「しないという選択肢、…発想すらありませんでした」

 計り知れない彼の心の大きさに、私は息をのみました。
 曲がりなりにも信仰をしながら、何かあれば己の心の小ささを感じる私です。

 一時は希望の光が見えたものの、やがて病魔は彼女の体をむしばんでいきます。
 歩けなくなり、食べられなくなる、そんな中でもアルボム夫妻は自宅で献身的に介抱を続けます。

 夫妻は子供に恵まれませんでした。甥(おい)や姪(めい)をかわいがり愛を注ぎますが、家族だけで過ごす祝日となれば、夫婦二人、寂しさが際立ちます

 思いもよらず訪れたチカとの日々は、夫妻にとって宝物のような瞬間の連続でした。
 親の愛を知らないチカも、苦しい闘病の中でも、夫妻の愛に包まれて、精いっぱい生きることを楽しみました。

 スポーツライターとして、アメフトの祭典スーパーボールに32年間欠かさず足を運んだミッチでしたが、チカのそばにいることを優先しました。

 必死の介抱も空しく、チカは7歳で旅立ちます。アルボム夫妻の喪失感・虚無感は計り知れません。

 8カ月後、チカがミッチの前に現れます。彼は目を疑いつつも、チカ本人だと確信します。

 何カ月かに一度、書斎にいる彼のもとにやって来るようになり、生前のように、かくれんぼをしたり会話をしたりします。
 ミッチは、彼女の訪れるのを待ち焦がれつつ、チカとの家族の物語を紡いでいったのでした。

 3人は親子以上に親子でした。悲しくも愛と喜びに満ちた2年間は、夫妻にとって人生で一番濃密で忘れられない日々となりました。

 私にはこの出会いが、多くの人々のために尽くしてきたアルボム夫妻への、神様からの贈り物のように思えます。


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