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続・夫婦愛を育む 25
「私はそのためにいるんですよ」

ナビゲーター:橘 幸世

 Blessed Lifeの人気エッセイスト、橘幸世さんによるエッセー「続・夫婦愛を育む」をお届けします

 先日、隣に住む義妹が聞きたいことがあるとやって来ました。
 内向的な彼女と話すことは多くはありません。実務的な質問でしたので、幸い答えられました。

 その後、彼女が○○しに出かけてくる、と言ったので、その分野でも多少実務経験のある私は、する必要がないのではと思い、行く前にまず□□に電話して、○○すべきか聞いてみたら、と勧めました。

 彼女が素直にそうしてみたところ、必要ないと言われたとのこと。無駄な時間と労力を使わずに済みました。
 事は些細(ささい)でしたが、役に立てたことの喜びは案外大きく、胸にふわっときました。

 先回の本欄で取り上げたミッチ・アルボムによる物語。書き留めたい言葉が多い中で、一番印象的だったのが主人公の叔父の言葉です。

 「私はそのためにいるんですよ」

 静かにその言葉が心の中で響いて広がっていく感じがしました。

 彼は医師で、主人公母娘に寄り添うようにサポートします。記述はありませんが、状況から見て独身のようです。
 母娘が住み慣れた土地を離れて、遠くで新しい生活を始めると、数年後、彼もその土地に移り住みます。

 主人公が「どうして生まれ育った東部を離れて、わざわざこんな遠くまで来たの?」と叔父に聞くと、「君のお母さんは僕の家族だから」と答えます。
 自分の家族のためにそこまでするのかと、当時中学生だった彼女は理解できません。

 かといって、彼は自分から積極的に姉や姪(めい)と関わろうとするわけではありません。
 同じ土地にいれば、いざという時母娘の力になれるから、と思ったのでしょう。
 こういう愛の形があるんだと、何ともいえない感動を覚えました。

 主人公は、新しい土地で唯一の友でもあったボーイフレンドと別れ、母を亡くし、最初の結婚も悲しい形で終わります。
 自分は駄目だ、自分は失敗ばかり、自分は役立たずだと、幼い頃から思ってきた彼女は、生きる気力をなくし、行く当てもなく、叔父の家で泣いて臥(ふ)せるだけの日々を何カ月も過ごします。

 叔父の所には、不安だったり質問があったりするのでしょうか、時々患者から夜に電話がかかってきます。
 穏やかに受け答えする叔父は、会話の最後に「そのために私はいるんですよ」と言います。恐縮して感謝する患者に応えての言葉でしょう。

 その言葉を別室で耳にしているうちに、主人公の心に新しい力が芽生えます。彼女は看護師となり、多くの患者の力となる道を歩み始めたのでした。

 ささやかでも、自分の言葉で、行為で、あるいは存在だけで、誰かが喜んでくれることを喜びとして生きる。

 私も、義母を病院に送迎した時、友人の愚痴や悩みを聞いた時、何かの手伝いをした時、「そのために私はいるんですよ」と(心の中で)穏やかに言えるようになれたらと思います。

 かつて真のお父様が、あるおばあさんの話を、まるでそのおばあさんの話を聞くためだけに存在しているかのように耳を傾けておられた、と伝え聞いたのを思い出しました。


 橘幸世氏の書籍はこちらから。
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