世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

仏、「マクロン退陣デモ」とその背景

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 12月3日から9日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 フランスの「反マクロン」デモ、政府は燃料税増税の半年間延期決定(4日)。カナダ政府、中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)CFOの逮捕(12月1日)を公表(5日)。北朝鮮の李容浩外相が習近平主席と会談(7日)。ドイツ与党、メルケル氏の後継者にクランプカレンバウアー氏(党幹事長)選出(7日)。改正入管難民法成立(8日未明)、などです。

 今回はフランスを取り上げます。フランスのマクロン政権下でデモが「常態化」、過激化し、リーダーシップが問われる事態に発展しています。12月4日、政権は燃料税制改革(税率上げ)を延期することになりました。

 「マクロン退陣」の声は単純ではなく、極めて多様です。マクロン氏は、経済相の時から、低迷するフランス経済の立て直しや格差拡大への対応に取り組んできました。昨年5月の大統領就任後は、経済成長を阻害する「フランス病」にメスを入れようとし、改革を進めてきたのです。背景には、国鉄、航空会社、法曹界、大学などに広がる「病巣」があります。

写真はイメージです

 その一つが「大学改革」です。フランスには大学入試がありません。バカロレアという高校卒業資格を取れば、だれでも国立大学に入学できるのです。希望者が多過ぎれば、抽選を行います。受験地獄とは無縁です。一見、いい制度に見えるのですが、講義室は座り切れない学生であふれ、入学1年で3割は脱落し、4年間で学士(卒業資格)を取るのは4割にすぎません。

 かつて西欧の知の中心地だったソルボンヌ大学は、英誌による最新の世界大学番付で196位です。国内で優秀な学生は、「グランドゼコール」と呼ばれるエリート養成校に入ります。大統領はその最難関、国立行政学院(FNA)を卒業しました。平等に固執し、フランスはずるずると世界のトップから引き離されていったのです。

 マクロン氏は、教育改革として能力主義を吹き込みました。高校時代の内申書を判断材料とすると決めました。希望者が定数より多ければ、能力で決めるべきとの原則を打ち出したのです。

 ソルボンヌ大学は4月、大学改革に反対する学生に一時占拠される事態になりました。垂れ幕には「ファシスト打倒」「資本主義反対」という左翼用語が躍っていました。

 フランスのデモは、日本とは異なる「文化」の一つと言えます。マクロン政権の、デモへの対応に注目していきましょう。