世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米中首脳会談、米国が「圧倒」

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 11月25日から12月2日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 ロシア警備艇がウクライナ艦船を拿捕(だほ)した問題で国連安保理が緊急会合(11月26日)。米、中間選挙の上院議席確定。共和党53議席に(27日)。ニュージーランド・通信大手スパークス、当局から中国のファーウェイ機器の使用を禁じられたことを公表(28日)。韓国大法院判決、三菱重工に賠償命令(29日)。G20首脳会議(アルゼンチン)、米中首脳会談開催(12月1日)、などです。

 今回は、12月1日の米中首脳会談を扱います。

 今回の米中首脳会談はブエノスアイレス(アルゼンチン)で行われました。世界中がその結果を注目していました。米国が「圧倒」したと言っていいでしょう。

 トランプ大統領は会談後、ホワイトハウスが発表した声明の中で、「米中双方に無限の可能性をもたらす生産的な会談になった」と評価しました。声明によれば、米国の新たな対中関税の90日間延期と、不公正取引の改善への協議の継続が合意されました。

 具体的には、(1)(中国による米企業への)技術移転の強要(2)知的財産権の保護(3)非関税障壁(4)サイバー攻撃とサイバーによる窃取(せっしゅ)(5)サービス業、農業などに関する構造改革について「即座に協議を始める」ことで一致しました。

 この会談は、中国にとって、米中の激突を貿易問題の枠内にとどめられるか否かの「最後の機会」になるだろうと言われていました。中国は、会談に先駆けて貿易戦争の打開策として142項目の行動計画を提示しましたが、その内容は米国が満足いくものではありませんでした。

 米国にとっての「焦点」は、貿易赤字の削減そのものではありません。中国による知的財産権侵害の改善であり、産業補助金の撤廃なのです。

 外交・安全保障分野では、北朝鮮の非核化問題に関して「大きな進展があった」との認識で米中が一致し、トランプ氏と習氏が、朝鮮半島の非核化実現に向けて一緒に取り組んでいくことで合意しました。

 米国にとっては、習近平主席が「知的財産権侵害」問題の存在を認め、今後の協議内容としたことに一定の評価をしているのでしょう。でもトランプ氏は、12月1日、同日午後予定していた記者会見を急きょ中止しています。ブッシュ元大統領の死去で「敬意を表するため」としているのですが、記者会見では米中協議の見通しに言及するとみられていました。

 トランプ氏は「本音」の部分で、中国の対応に満足していないのかもしれません。
 いずれにせよ、会談は、一時休戦というようなものではなく、米国が「圧倒」したものと理解すべきです。