世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

「ファーウェイ問題」の本質とは

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 12月10日から16日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 日本政府、サイバーセキュリティ対策推進会議を開催。ファーウェイとZTE(中興通訊)を念頭に、悪意ある機能が組み込まれた機器を調達しないことを申し合わせ(10日)。米財務省が北朝鮮の崔竜海党副委員長ら3人を人権侵害問題で制裁対象に指定(10日)。中国、カナダの元外交官ら二人の身柄拘束を公表(13日)。日韓議員連盟総会で共同声明を採択。大法院判決について「深い憂慮を示す」(日本側が主張)との文言を盛り込む(14日)、などです。

 今回は「ファーウェイ問題」を取り上げます。米中首脳会談が行われた12月1日、中国通信機器大手・ファーウェイ(華為技術)のCFO(最高財務責任者)がカナダ当局によって拘束されました。米国政府の要請によるものです。拘束されたのは孟晩舟氏。11日にはカナダの裁判所の決定により保釈されましたが、今後は、いつ米国に引き渡されるかが焦点の一つとなります。

 ファーウェイは情報空間支配を狙う中国の国策会社です。創業者は元軍人。中国共産党と人民解放軍の庇護下で急成長しました。8月に成立した米国防権限法は、ファーウェイなど中国の通信5社を名指しし、安全保障上の政府機関や取引企業の調達先から排除しなければならないと規定しました。

 通信機器の部品や使用するソフトに悪意を持って不正なプログラムやチップなどを混入させれば、遠隔操作によって政府機関の機密情報を窃取したり、重要な輸送手段や通信基盤を停止させたりすることが可能になります。

 孟氏の容疑は、米国が制裁しているイランとの不正な取引(2010~2014年)に関わったというものです。当時、米国はイラン経済制裁を強化しており、禁止品目の取り引きを続ける企業は制裁対象となり、米国市場から締め出される可能性がありました。孟氏はイランとの取引について虚偽の説明をしたとして詐欺の疑いをかけられているのです。中国はカナダに対して「報復」に出ており、二人のカナダ人を拘束しました。

 この「事件」の背景には、トランプ政権誕生前からの中国への非常に強い警戒心があります。特に中国IT(情報技術)企業への警戒心を高めています。米国が危機感を強めたのは、昨年10月の共産党大会や、今年3月の全国人民代表大会で確認された「中国製造2025」です。次世代通信規格「5G」を含めた次世代IT産業を重点分野とし、ファーウェイを強く後押ししたのです。

 日本政府もようやく動き出しました。総務省は12月14日、5G移動通信システムの周波数を携帯電話各社に割り当てる際の審査基準を定めた指針を決定しました。中国製品の一部を事実上排除するように求める項目を盛り込んだのです。

 「米中冷戦」は本格的段階に入りました。「日本」が米国と危機意識を共有できるか、心配です。