夫婦愛を育む 44
「大丈夫だよ」

ナビゲーター:橘 幸世

 センター試験を間近に控え、高校3年生たちは受験勉強にますます精を出しています。

 先日、ある生徒がマーク模試で英語が90点上がった(200点満点です)、と知り合いの先生がうれしそうに言ってきました。地元一の進学校の生徒ながら、部活に忙しかった1年前は中学生レベルの単語も怪しかった彼。

 でもその先生は、決してあきれ顔などせず、同じ事を何度でも説明し(この間やったでしょ、など言わず)、どんな初歩的な質問にも辛抱強く答えます。

 彼女の確信は、英語は誰でもできるようになる、というもの。筋の善しあしに個人差はあるにしても、英語圏で育てば誰でも英語を話すのだから、適切な勉強を本人が努力をもって積み重ねれば、できない人はいない、と信じています。

 そんな彼女の口癖は、「だぁいじょうぶ」。生徒が不安や自信のなさを訴えても、いずれ皆できるようになるから、というスタンスです。
 ただし、どんなに信じていても、どうにもならないのが本人のやる気。これは待つしかありません。今回90点アップした生徒は、英語が他教科に比べてかなり悪いので、意を決して1カ月ほど英語しか勉強しなかったそうです。

 他の科目は大丈夫かと聞くと、2科目点が上がったとのこと。脳が活性化されたのでしょうか。授業が終わっても、先生に英語の質問攻めです。そうして「だんだん英語が分かってきた」という言葉が飛び出しました。

 できると信じて、決して否定せず、根気よく教える。導く側の姿勢として、どの世界にも通じるのではないでしょうか。

 以前紹介したテレビドラマ『僕らは奇跡でできている』に、こんなシーンがありました。
 主人公の母親が、母であることを隠して、長年息子に接してきました。大きな負債があって、母と名乗る資格がないと感じていたのです。

 ところが実は息子は、彼女が母だとある時から気付いていました。それを知った彼女は、母と名乗り出なかった理由を息子に言うべきか言わざるべきか、迷って義父に相談します。
 義父の答えは、「どっちにしてもうまく行かないだろう」。驚いた彼女がなぜかと尋ねると、彼は言います。「おまえさんは自分も一樹(主人公)も信じていない。それではうまく行かない」。

 心の姿勢を正して、彼女は息子に事情を語ります。自分という存在も他者の存在もそのまま受け入れる生き方を身に付けてきた彼は、母を見事に受け止めます。
 信頼を土台として関係を結んでこそ、事がいい方に回転する。あらためて「信頼」の大切さを教えられたシーンでした。