スマホで立ち読み Vol.38
『“人さらい”からの脱出』9

小出浩久・著

(光言社・刊『“人さらい”からの脱出 違法監禁に二年間耐え抜いた医師の証言』〈2023年11月20日改訂版第2刷発行〉より)

 スマホで立ち読み第38弾、『“人さらい”からの脱出』を毎週水曜日(予定)にお届けします。
 2年間にわたる拉致監禁後、「反統一教会グループ」の一員として活動した経験のある筆者。そんな筆者が明らかにする、「脱会説得」の恐ろしい真実とは。

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1 15カ月間の監禁生活

三、東京のマンションでの説得

 監禁されてしばらくすると、私のいる部屋にタバコの臭いをプンプンとさせる中年男と、20代から30歳くらいの若い男女56人が入ってきた。

 人相の悪く見えたその中年男性こそ、統一教会員に対する拉致・監禁による改宗活動の“首謀者”と言われる宮村峻(たかし)氏であった。

 宮村氏と一緒に来た若い男女の中には、TKさん(福岡の婚姻無効裁判でテレビにも出演、『FOCUS』にも載った)、YTさん、KWさんらがいた。いずれも以前は統一教会員だった人たちである。

 私が監禁された部屋に入ってきた彼らは全員、険しい顔つきで私のほうをにらんでいた。

 宮村氏はヨレヨレの背広を着ており、髪はボサボサ、皮膚の色はドス黒く、目つきはひときわ鋭かった。灰皿を自分の脇に置き、話の間中ずっとタバコを吸い続けていた。

 彼の外見を見て、「何でこんな人を私の両親や元信者たちは信じてしまったのだろう」そう思わずにはいられなかった。

 私は、拉致・監禁という理不尽な行為に踏み切った両親や兄弟、そして元信者らに強い憤りを感じた。

 「何で普通の状態で話し合えないんだ。こんなことをしても信仰は絶対に棄てない」

 私は、監禁者たちに食ってかかった。

 そして「基本的人権を無視した暴力的宗教迫害はやめていただきたい!」と。

 この言葉ばかりを幾度となく繰り返した。

 言葉の強さとは裏腹に心の内は相当乱れていた。何人もの元信者に囲まれ「私も信仰を捨ててしまうことになるのか」と感じてしまっていた。どんな犯罪者でも弁護士をつけられるし、拘留されるには裁判で判決を受けてからになるし、警察がつかまえるのにも逮捕状が必要なことなどを話した。

 かえって父は怒りに震えて、「統一教会で犯罪ばかりを行っている者に、基本的人権なんて言う資格はないんだ」と怒鳴り返してきた。

 私はそれでも「基本的人権を無視した方法での脱会強要はやめてくれ」と訴え続けた。

 私の目の前に立った宮村氏は、開口一番「やめません!」と言ったが、あわてて「いや、やってません」と言い直した。

 そして宮村氏は「お前ら統一教会の人間は憲法より天法が優先するといっているだろう。こんな時に憲法を持ち出すのはおかしいぞ」「統一教会の常識はこの世の非常識だといわれているんだろう」などと揶揄(やゆ)するように言い、周りの元信者と私の家族に「そうだよな」とか「そうですよね」とかと、同意を促した。

 元信者たちはうなずきながら、一言一言、そこに悪口を付け加えた。

 両親といえば、神妙になって「はい、そのとおりです」と答え、宮村氏の言われるままに従っていた。

 さらに宮村氏は「統一原理を信ずる者は狂っており、元信者は今はまともになったのだ」とも付け加えた。

 Nさんという女性は、「こんな『原理講論』なんてマチガイだらけで、一時期でも私も信じていたかと思うと、恥ずかしくて自分の子供が生まれても見せられないわ」と言ってきた。

 宮村氏は私のほうをにらんで、「もう、おれの“波動”で負けたと思っているだろう。フフフ……」と鼻で笑った。

 そして「おまえは統一教会員の中では優秀だと思っているんだろう。原理を分かっていると思っているんだろう。しかし、……。統一思想の原相論の神相と神性の違いも分からないんだろう」と言う。

 その時の私は“いや~、そんなことは勉強していなかったな”と思ったが、統一原理の教える本質は、信仰生活の中での体験の積み重ねによって、つかんできた、という自信があったので、さほどショックは受けなかった。

 私は小手先の屁(へ)理屈だけであれこれ攻めてくる宮村氏を無視して、構わず「基本的人権」を訴え続けた。

 そんな私に耐えかねたのか、宮村氏はついにテーブルの上に身を乗り出して私のほうをにらみつけ、「おれはこうやってにらめっこを最高3時間くらいしたことがあるんだ」と威嚇してきた。私が横を向いてしまうと、今度は胸ぐらをつかんできた。

 すかさず「暴力はやめていただきたい」と言うと、さっとその手を離した。

 そんなやりとりがあり、宮村氏らは、その日はあきらめて帰っていった。

(続く)

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 次回は、「東京のマンションでの説得②」をお届けします。



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