2025.05.28 17:00
共産主義の新しいカタチ 65
現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)
「シーニュ」体系とは「文化の体系」
フェルディナン・ド・ソシュール(中)➁
風船が割れ、他のコトバが空間占める
さて、「記号としてのコトバ」が生成・区分されるとはどのようなことを指すのか、前出の『現代思想のパフォーマンス』がモデル模式図を用い説明しているので、次に引用してみます。
記号としてのコトバによる世界の区分…それを知るには、丸山圭三郎が『ソシュールの思想』で用いた「箱」の例が便利なので、それをここでも利用することにしよう(下図)。
この図の四角の部分を、動物という名称を持つ箱だと仮定してもらいたい。その箱の中には、いくつもの風船が、膨らんだ状態で入っている。それぞれの風船には、「イヌ」「オオカミ」「キツネ」「タヌキ」という名称がついている。
今ここで「オオカミ」の風船を割ってみる。そうすると、この箱全体から「オオカミ」の風船が消えて、それと共に、それ以外の風船が、それまで「オオカミ」の風船があった空間を占めるように広がる。その結果、かつて「オオカミ」と呼ばれていた動物は、もはや「オオカミ」として存在しなくなり、それ以外の名称によって呼ばれ始める。
この例から窺える通り、「オオカミ」という動物は、最初から存在していたのではなく、動物を記号で区分する方法に応じて、「オオカミ」として現れていたに過ぎない。そのため、ある文化圏で「オオカミ」と呼ばれていた動物が、別の文化圏では「イヌ」と呼ばれることが起こる(実際、世界にはそうした事例がある)。
これに対して、「たとえオオカミをイヌと呼んでいる人たちがいるとしても、それは彼らが動物について正しい知識を持っていないからではないか」という反論があるかもしれない。しかし、動物に関する知識もまた、誰かによって作られたものである以上、それを構成しているルールがあるはずである。
例えば動物学者たちは、彼らなりの方法で動物を区分して、動物に関する知識を作り上げている。とかく私たちは、専門家の権威に押されて、それを「正しい知識」と思い込みやすい。しかしソシュールなら、それは大きな誤解だと言うだろう。これを別の例で確認しておこう。
オーストラリアの都市部では、ほとんど雪が降らない。雪を見たことのないオーストラリア人がたくさんいる。たとえ雪を見たことがあるオーストラリア人でも、雪は「スノウ(snow)」である。しかし日本では各地で雪が降るし、場所によっては何種類もの雪が降る(と考えられている)。中でも粉雪や牡丹雪は、よく知られている。例えば津軽では、新沼謙治の歌を信じれば、「七つの雪が降る」。しかしイヌイットの人たちの住む地域では、その何倍もの種類の雪が降るらしい。
どうやら私たちは、雪との関係に応じて、雪の種類を区分しているらしい。つまり、何種類もの雪が最初からあったというより、私たちが雪との親密度に合わせて雪を区分するにつれて、その種類の雪が現れるわけである。
だから、雪を見たこともなく、雪を記号で細分化する方法も知らない外国人が日本へ来ても、彼らには「雪」は見えても、「粉雪」や「牡丹雪」は見えない理屈である。それと同じく、一般の日本人がイヌイットの人たちの住む地域を訪れても、彼らの雪の区分の方法を習得しなければ、それまでの生活で身に着けた雪の種類しか見えないだろう。…(中略)…
これまで見てきたとおり、ソシュールの言語観では、動物でも雪でも食物でも、何種類かのモノそのものが最初から存在して、コトバで名づけられるのを待っているわけではない。動物や雪や食物を記号によって区分するからこそ、それに応じて、それぞれのモノが存在し始めるのである。それゆえ、ソシュールに言わせれば、一般にコトバと呼ばれているものは、世界を区分する記号としての語のことであり、言語とは、記号としての語の相互関係から構成される体系のことにほかならない。
このように、「コメ」の様態を表わす日本語が多様であるというばかりでなく、「雪の種類」に関する言語表現も、文化背景によって全く異なってくるということになります。
今日、「イヌ」と呼ばれている動物は、野生の「オオカミ」が長い年月をかけ家畜化され「イヌ」となった、と一般的に考えられています。実際、同じネコ目イヌ科イヌ属にカテゴライズされる哺乳類であり、上の写真だけ見れば「オオカミ」を「イヌ」と知覚する人は少なくないでしょう。
★「思想新聞」2024年5月1日号より★
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