facts_3分で社会を読み解く 68
UPF-Japan対鈴木エイト氏裁判

デマを拡散したエイト氏を救った東京地裁判決

ナビゲーター:魚谷 俊輔

 UPF-Japanがジャーナリストの鈴木エイト氏を訴えた民事訴訟については、既にこのシリーズの第1回第17回第46回第47回で報告してきた。

 訴えの主旨は、鈴木エイト氏がXへの投稿や講演を通じて、UPF主催の国際会議にビデオメッセージを寄せた安倍晋三元首相に対し、UPF側がメッセージの見返りとして5000万円を支払ったなどとする虚偽の発言を繰り返してきたことが、名誉毀損(きそん)に当たるというものだ。

 この裁判の判決が514日、東京地方裁判所(足立堅太裁判長)で言い渡され、UPF-Japanの請求が棄却されるという残念な結果になった。
 判決はわれわれにとって受け入れがたいものであったが、裁判を通じて明らかになった事実を整理しておきたい。

 まず、原告であるUPF-Japanの当事者能力については、団体としての主要な点が確定しており、「法人でない社団」に当たるので、被告側の主張は退けられ、当事者能力ありと判断された。

 次に、安倍首相がUPFの大会に送ったビデオメッセージに対する謝礼として5000万円を受け取ったことが事実であるという証拠は、この裁判では何一つ提示されず、それが事実であるとは立証されなかった。

 従って、鈴木エイト氏の発言は根拠なきデマであることが裁判の過程で明らかになったのである。
 にもかかわらずUPF-Japanが敗訴した理由は、そのことが直ちに名誉毀損に当たるとは言えないと裁判所が判断したためである。

 裁判所はまず、家庭連合(旧統一教会)と国際的なNGOである「UPF」と、原告であるUPF-Japanを区別し、これらは別個の団体であるとした上で、5000万円を安倍氏に支払ったのが原告であるUPF-Japanであるとは、鈴木エイト氏によるXへの投稿や講演からは「特定できない」として、原告の訴えを退けたのである。

 さらに判決は、たとえ旧統一教会またはUPFが上記謝礼を支払ったとしても、そのことが直ちに贈賄や脱税、政治資金規正法違反の教唆などに当たり不当であるとは言えず、これらがUPF-Japanの社会的評価を下げるとは言えないと判断した。

 要するに裁判所は、鈴木エイト氏の発言が根拠なきデマであることは百も承知の上で、彼を名誉毀損による敗訴から救済するために、あえて「謝礼を支払った主体がUPF-Japanであるとは特定できない」という論理で逃げたのである。

 鈴木エイト氏は曖昧な表現で責任を逃れることにより、名誉毀損の不法行為を免れることができた。
 しかし同時に、しっかり裏取りをして明確な事実を報道するのが使命であるジャーナリストとしては失格であることを自らさらす結果となった。

 「デマでも曖昧な表現なら許されるから、言ったもん勝ち」では、ジャーナリストの矜持(きょうじ)を捨てたも同然である。


あなたの知りたい社会のあれこれを教えてください