2025.05.05 22:00
facts_3分で社会を読み解く 66
「不当寄附勧誘防止法」の問題点(10)
宗教的知見を認めない「不当寄附勧誘防止法」
ナビゲーター:魚谷 俊輔
「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(不当寄附勧誘防止法)」は施行後2年が経過し、改正の時期を迎えている。この法律の問題点を指摘するシリーズの第10回である。
最終回の今回は、同法に対するマッシモ・イントロヴィニエ氏(イタリアの宗教社会学者で弁護士。新宗教研究センターの創設者)のコメントを紹介しよう。
この法律は第3条第1項で、寄附の勧誘を受けた場合に「個人の自由な意思を抑圧すること」を違法とし、第4条で寄附が自発的でなかったことを示す六つの状況を列挙している。
その中には身体的暴力による献金勧誘を禁じるような合理的な規定もあるが、問題となるのは六つ目の状況だ。
それは、「霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見」として、「当該個人又はその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、若しくは将来生じ得る重大な不利益を回避することができない」と述べて寄附を勧誘することを禁じている。
この部分は法律の中心部分に当たり、「霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力」に基づく知見とは、まさに宗教的知見であるため、物議を醸している。
有名な例として免罪符(「贖宥状〈しょくゆうじょう〉」とも)を巡る論争がある。
カトリック教会の教えでは、亡くなった人間の多くは、そのままでは天国に行けるほど善人でもなければ地獄に行くほど悪人でもないとされる。それ故「煉獄(れんごく)」と呼ばれる場所で、罪を償うために時間を過ごすべきだというのだ。
煉獄は決して快適な場所ではない。彼らは、そこにいる時間を短くすることはできないが、地上の親族や友人は、彼らの魂のためにミサをささげるなど、適切な儀式を行うことによって、その時間を短縮できる。
16世紀になると、死者のために金銭を提供すれば、彼らは自動的に煉獄から天国に行けると唱える説教者が現れた。
ドミニコ会の説教者ヨハン・テッツェルは、「お金が賽銭(さいせん)箱に入ると同時に、魂は煉獄から飛び出す」というスローガンを唱えたとされているが、これがマルティン・ルターの宗教改革のきっかけになった。
金銭の提供が煉獄での魂の状態を緩和するということは、当時のカトリック教会で一般的に教えられていた。
その他にも、献金が、生者にとってはより良い来世や輪廻(りんね)転生をもたらす徳行であり、地上の親族や友人が死者に代わって献金すれば、霊界でより良い扱いを受ける可能性がある、といった教えを説く宗教は数え切れないほどある。
私たちのほとんどは、死後の世界について知らない。それでもなぜ死後の世界を信じるかといえば、神父、牧師、ラビなどの宗教的指導者が、「自分は知っている」と言って教えるからである。
これこそまさに、「霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見」だ。
そしてこうした宗教的指導者たちは、死後の世界に関する彼らの教えが真実であることを「合理的に実証」することはできない。