2025.04.28 22:00
facts_3分で社会を読み解く 65
「不当寄附勧誘防止法」の問題点(9)
あまりにも曖昧な「不当寄附勧誘防止法」
ナビゲーター:魚谷 俊輔
「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(不当寄附勧誘防止法)」は施行後2年が経過し、改正の時期を迎えている。この法律の問題点を指摘するシリーズの第9回である。
同法の具体的な条文の不備の続きである。
同法は第4条において、「法人等は、寄附の勧誘をするに際し、次に掲げる行為をして寄附の勧誘を受ける個人を困惑させてはならない」とした上で禁止事項を定め、第8条でそうした行為によって困惑し、それによって寄附の意思表示をした場合には、それを取り消すことができると定めている。
しかし「困惑した」という要件は、もっぱら本人の感情であるため、本人が困惑したかどうかを宗教法人が客観的に判断することが難しく、あまりにも曖昧である。
寄附の当時、本人は十分に自由であり、十分に納得して感謝した上で寄附を決定したとしても、後日心変わりをした際には、「あの時は実は内心では困惑していた」と言えば取り消しができてしまうからである。
「困惑」はあくまで本人の感情であるため、宗教法人側はそれを反証することができない。
これを利用して、宗教団体を相手取った献金返還訴訟が多発することが懸念される。
宗教団体においては、将来の訴訟に備えて全ての献金について、この法律の適用となる事項がなかったことの証拠を残そうとしても、それは不可能である。
従来は、信者から宗教団体に高額の献金をする場合には、公正証書にするという方法があった。
公証人によって、本人確認と本人の意思確認がなされるので、将来のもめごとを防止できると考えられたからである。
しかし今や、「困惑して、言われるままに公証人役場に行った」と言われれば、公正証書すら意味がなくなってしまう。
2024年7月、家庭連合の元信者とその家族が教団に支払った献金を返すよう求めた裁判で、最高裁判所が元信者の書いた「教団に返金を求めない」という念書は無効だとする判断を示して以降は、献金が適法にささげられたことを証明するのがさらに難しくなっている。
さらに、献金を勧誘するとは具体的にどのような行為を指すのか。献金の意義を訓示したら、それが直ちに「勧誘」に当たるのか、不明である。
また、個人の宗教的活動のどこまでが法人の活動とされるのかも曖昧である。
この法律の対象は「法人等」であるから、「個人」が含まれないことは当然である。
一般的に宗教団体の多くは信者の個人としての活動を奨励しており、特にプロテスタント教会では個人の伝道活動が推奨されている。その責任がどこまで法人に及ぶのかも曖昧である。
こうした曖昧な概念が多く含まれているため、同法の具体的な運用は多くの混乱をもたらすと思われる。