愛の知恵袋 39
「らしくある」ことの大切さ

(APTF『真の家庭』149号[3月]より)

松本雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

譲り合おうとしない子供たち

 ある婦人から子供のことで相談がありました。

 「うちの子供たちはなんでこんなに仲が悪いんでしょうか。家の中がめちゃくちゃです」とため息をつきます。「どんな様子なのですか?」「3人の息子たちがお互いに自分の主張ばかりして、毎日喧嘩をするんです。食べ物でも、ゲーム機でも怒鳴り合って奪い合うばかりだし、私の言うことも全然聞かないんです」

 何となく家の様子が目に浮かぶようでした。「男3人兄弟なら、そういうこともあるでしょうが…。ところで、お子さんたちは何歳ですか」と聞いてみると、高1と中2と小6だと言うのです。幼児や小学生ならそういう時期もあり得ると思いましたが、中高校生になってもそんな状態だということは、何か別の原因がありそうだな…と感じたので、聞いてみました。

父親らしくない夫

 「ところで、ご夫婦の関係はうまくいっていますか?」「うーん、良くないですね。私の夫は全然頼りないし、父親らしいこともしてくれませんから…」と言って顔をしかめます。

 聞いてみると、結婚後しばらくは良かったのですが、子供ができてからは何かにつけ意見が合わず口論になることが多く、お互いに不満がたまっていったようです。やがて、夫は不況のあおりで会社を解雇され、二度、三度と転職をくり返し、今は自営業といえば聞こえは良いが、株や為替で儲けるんだといって、部屋にこもってパソコンばかりいじっている。見かねた妻が非難すると、怒って家を飛び出して酒をあおる。たまには子供をどこかへ連れて行ってほしいと思っても、無視してバイク仲間とツーリングに行ってしまう。「全く、こんな人だとは思いませんでした」と、あきれ顔です。

夫の切実な告白

 このままでは離婚に発展しそうなので、ご主人にも会ってみました。すると、また違った側面が浮かび上がってきました。夫は遊び人風の人かと思ったのですが、そうではありませんでした。

 「私が周りからどう見られているかということは、自分でも分かっていますよ。でも、弁解に聞こえるかも知れませんが、こうなったのは妻にも原因があるんですよ。彼女は、結婚したあとは私に対して横柄な態度をとり、自分の思うようにならないとヒステリックに私を非難します。子供ができると、もっと言葉がきつくなり、命令するような言い方をするようになりました。私が最初の会社を退職し、彼女がパートを始めると、さらに私を見下すような言動が増えました。自分としては不況で大変な時代に、何度も仕事を探して努力しているのに、収入が少ないと言ってバカにします。その都度、カッとして喧嘩になるし、妻がそうなので子供まで親に対して横柄な態度を取るんですよ。私の自尊心はボロボロです。性生活ももう何年も無いし、家にいてもストレスがたまるだけですから、外に出て行くしかないんですよ」

「らしさ」のない所には、真の愛情は生まれない

 話を聴きながら、このご家庭の悲劇の根源は、「格位性の喪失」が原因ではないかと感じました。一家の中心である夫と妻の関係が主客転倒状態にあるため、その影響が子供たちにも反映しており、”親と子”や”兄と弟”の本来的な情的秩序ができていないのです。

 この家族に必要なのは、それぞれの「ポジション」を明確にすることであり、「その位置にふさわしいあり方」を取り戻すことが必要だと思います。

 夫婦の関係においては、夫は妻に対して「夫らしい」態度を取らなければなりません。男らしく生計を立て、妻と子供に広い心で愛情表現をする努力が必要でしょう。

 また、妻は夫に対して、「妻らしい」態度を取らなければなりません。一家の主人としての夫の位置を尊重し丁重に扱い、いかなる時も、女性らしい優しく可愛らしい言動をもって夫を支える態度が必要です。そうすれば夫婦仲が良くなります。

 その上で、子供たちに対しても、男性は父親らしい姿を見せ、女性は母親らしい姿を見せることが大切です。

 母親が父親を尊重しながら仲睦まじい姿を見せるとき、子供たちは最も基本的な人間のあり方、即ち、「長幼の序」という「倫理」を自然に学び、兄は弟を愛し、弟は兄を尊敬して慕うという兄弟愛が生まれてきます。

まず、我が家から倫理の確立を

 夫が夫らしく、妻が妻らしくすれば、夫婦の愛情が芽生えます。同様に、親が親らしく、子供が子供らしくあればあるほど親子の情は深まります。兄が兄らしく、弟が弟らしくあってこそ兄弟愛も育ちます。学校では、先生が先生らしく、生徒が生徒らしくあってこそ、学問の目的が成就します。

 社会でも、上司と部下、先輩と後輩など、目上と目下の関係にメリハリのある会社や団体のほうが人間関係が円滑で、事業も長期的な成果を上げることができます。

 昨今の日本の社会秩序全般にわたる乱れは、「格位性の喪失」に端を発しているように思えてなりません。この国を立て直す道は、根本的な人間関係のあり方、つまり、「倫理」の立て直しにあり、そのためには、まず私たちが身近な家族の人間関係から正していくことが大切なのではないでしょうか。