世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

なぜ今、日中首脳会談か

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 10月22~28日を振り返ります。

 この間、世界で以下の出来事がありました。
 米朝実務者協議中止(22日)。ボルトン米大統領補佐官とプーチン露大統領が会談(中距離ミサイル〈INF〉条約破棄問題)(23日)。臨時国会召集(24日)。安倍晋三首相、訪中。習近平主席、李克強首相と会談(26日)。沖縄県議会、辺野古移設の賛否を問う県民投票条例可決(26日)、などです。

 今回は7年ぶりの首相の訪中と日中首脳会談を扱います。今年は、日中平和友好条約締結40周年に当たりますが、中国側の要請で10月24日に安倍首相が訪中。26日には、釣魚台国賓館で習近平主席と日中首脳会談を行いました。およそ1時間30分です。

 まず中国の「熱烈歓迎」ぶりには驚かされました。天安門広場には日章旗と五星紅旗が並んで14対掲げられたのです。

 背景にあるのは「米中通商戦争」です。外交・安保においても米国の対中姿勢は変化しました。「米中対立」は中・長期的に継続します。中国としては、対立する相手、それも「経済力」において世界1位の米国と3位の日本を「敵」に回すことはできません。「二正面対決」は避けなければならないという判断なのです。

 そしてもう一つ、重要なことは「日米離間工作」であるということです。
 今年の6月ごろから、中国の学者たちの中に「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に中国が入るべきだ」との声が上がり始めているのです。最初は耳を疑いました。しかし中国は大真面目です。自由貿易の旗の下、離脱した米国を日中で孤立させようというわけです。

 日本の「狙い」は何でしょうか。
 北朝鮮の非核化、対北国連経済制裁の継続の確認、北朝鮮による日本人拉致問題の解決、米中対立の対応として中国側に知的財産権問題の是正を提起、日本人がスパイの疑いで拘束されている問題への対応、東日本大震災を契機とする農水産物の輸入規制の見直しなど、首脳会談で、安倍首相は全てを提起しました。絶好の機会でした。習近平主席は拒否することはできませんでした。北朝鮮に関わることや農水産物の輸入規制の見直しについては、明らかに前向きな姿勢を示したのです。

 日本が最も気を使ったのは、米国に疑念を持たれないようにすることでした。周到な準備が行われました。安倍氏は、谷内正太郎国家安全保障局長を事前に訪米させ、対中最強硬派のボルトン米大統領補佐官と協議させています。「米国に対抗するための日中連携ではない」ことを、繰り返し説明してきたのです。

 これで中国が変わったとみることはできません。歴史、領土問題は話し合われませんでした。しかし日本の存在感が大きくなったことは確かです。