世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

「溝」が埋まらない米朝

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 10月15日から21日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 安倍首相、閣議で来年10月消費税率10%に引き上げる考えを表明(15日)。韓国・北朝鮮の閣僚級会議で南北鉄道・道路の連結、現代化着工式を11月末から12月初旬に行うことを合意(15日)。ロシア正教会、コンスタンティノープル総主教庁との関係断絶を発表(15日)。米国防総省、冬の米韓合同軍事訓練「ビジラント・エース」の中止を発表(19日)。トランプ米大統領、米国が1987年に旧ソ連と結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を表明(20日)、などです。

 今回は朝鮮半島・非核化に向けての現状を説明します。
 米国防総省は19日、毎年行われてきた冬の米韓合同軍事訓練(演習)「ビジラント・エース」の中止を発表しました。同日、シンガポールで開催されたマティス国防長官と韓国の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相との会談での合意を受けての公表です。米国防総省のホワイト報道官は「外交交渉が継続する機会を与えるため」と、その理由を説明しました。

 金正恩朝鮮労働党委員長とポンペオ氏は7日、平壌で会談しています。およそ2時間の協議を終えての昼食会で、金氏は「両国にとって良い未来を約束するとても素晴らしい日です」と述べました。応じる形でポンペオ氏は「ご招待に感謝します。今朝の会談はとてもうまくいきました」と笑顔で応じたのです。

 両者の会談の真実は「埋められなかった『溝』」でした。読売新聞が10月15日付の紙面で、日米韓協議筋が提供した情報を基に報じています。
 それによれば、金氏は核リストの申告を拒否。終戦宣言と経済制裁の解除を求めました。「信頼関係が構築されていない状態でリストを提出しても、米国が信用できないというだろう。再申告を求めかねない。そうなれば争いになる」と主張したといいます。さらに「終戦宣言を通じて米朝間の信頼構築が醸成されれば、非核化は米国が心配しなくてもいいほどスピードを増すだろう」と述べたのです。

 一方、ポンペオ氏は、北朝鮮が9月19日の「平壌共同宣言」で表明した北西部・寧辺の核施設の廃棄だけでは終戦宣言には応じられないと主張。生物・化学兵器を含む全ての大量破壊兵器計画の除去を求めた上で、保有する核弾頭、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、移動式発射台を一部でも廃棄もしくは国外搬出すれば、「終戦宣言など、北朝鮮が納得できる行動をとる」との立場を示したというのです。

 溝を埋めるための妥協を許さない忍耐強い対応が必要となっています。