世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

トルコ裁判所が米国人牧師を釈放。影響は中国にも及ぶか

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 10月8日から14日を振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 ICPO(国際刑事警察機構)総裁・孟宏偉氏を中国国家監察委員会が調査中と公表(8日)。米国、ヘイリー国連大使が辞意表明(9日)。世界同時株安に。米FRBの金利上げ懸念が背景(11日、12日)。トルコ裁判所、米福音派牧師のアンドリュー・ブランソン氏を釈放(12日)、などです。

 今回は、米国とトルコとの関係を取り上げます。トルコの裁判所(西部イズミル)は12日、トルコ当局が拘束していた米国人牧師(福音派)を釈放する決定を下しました。同日、ドイツを経由して米国に無事帰国し、ホワイトハウスでトランプ大統領と面談しました。

 米国人牧師の名前はアンドルー・ブランソン氏。2016年7月に起きたクーデターに関与したとして拘束されていました。
 トランプ氏は、トルコのエルドアン大統領に謝意を表し、「米・トルコの良好な関係に向けて素晴らしい一歩になった」と述べました。

 トランプ政権は8月、ブランソン氏の解放が実現しないことを理由にトルコ閣僚の米国内資産を凍結するなどの経済制裁を発動。対するトルコ政府も、米国閣僚がトルコに持つ資産の凍結する報復制裁を発動しました。トランプ政権はさらにトルコの鉄鋼とアルミに対する関税を引き上げ、「制裁合戦」となりました。これをきっかけとしてトルコの通貨リラの対ドル層が急落し、一時期、世界的株安や新興国からの資金流出が広がり、「トルコショック」となったのです。

 通貨の下落によってトルコ国内では、物価高が日用品や食料品などにも波及していきました。8月の消費者物価は前年同期よりおよそ18%も上昇しました。トルコ料理に欠かせないトマトソースは制裁前より約4割、卵やスイカは約2割も値段が跳ね上がったのです。やがて最大都市イスタンブールではストライキが相次ぐようになり、強権政治をとるエルドアン大統領の求心力にも影響が出始めていました。

 今後米国とトルコとは、関係修復に向かいます。シリア北部のクルド人への対応などで問題は残ってはいますが、より良い方向に向かうことは確かです。
 何よりもトランプ政権にとっては、中間選挙への良い影響を期待することができます。ブランソン氏はトランプ氏の最大支持基盤であるキリスト教福音派に属しているからです。

 そして中国への間接的影響もあるでしょう。10月末には安倍首相が訪中しますが、米中「経済戦争」収束に向けて何らかの役割を果たそうとしています。対立の長期化は中国にとってより深刻な事態をもたらします。