夫婦愛を育む 31
「こっちがつらい時は、向こうは倍もつらいもんだ」

ナビゲーター:橘 幸世

 嫁いで行く娘を、父親はどんな言葉で送り出すでしょうか?
 昭和24年、“ちいろば先生”として知られる故榎本保郎牧師に、娘・和子が嫁ぐ決心をした時、彼女の父親はこう言いました。

 「結婚というもんはな、伝道者の家庭でのうても、思わぬ辛いことがあるもんじょ。…どんなに辛うても、一旦嫁いだら決して逃げて来てはあかん」。うなづく娘に父はこう続けます。「あんな、和子、こっちが辛い時は、向こうは倍も辛いもんじょ。そこんところをよう考えておかにゃならん」(三浦綾子著『ちいろば先生物語』より)

 厳しい時代を真面目に生きてきた賢人(そして信仰者)なればこその助言かと、感銘を受けました。

 自分がつらいとき、周りが見えなくなり、自分ばかりが大変と思いがちだが、夫はもっとつらい思いをしている。

 さまざまな学びと経験を通して、今でこそ私もこの言葉の重みを実感できますが、若い頃はそこまで十分に見えていたかどうか、振り返ってみてあまり自信がありません。(実は和子は、新婚早々実家に帰ってしまったことがあります。実際に難しい状況に直面しないと分からないことは多いですね)

 悩みがあるとき、一般的に女性は人に話を聞いてもらいたいものですが、男性は黙ります。自分の問題は自分で解決する(できる)、悩みを相談するのは能力の欠如あるいは弱さの現れと見なすのです。

 不機嫌そうに黙り込んでいる夫を見れば、妻は心配したり不安になったり(時には不満に思ったり)するでしょう。そういうときは、あれこれ聞き出そうとせず、そっとしておきましょう、と講座ではお話ししています。

 あるいは、一見普通にしているようで、夕食後なかなかテレビの前、パソコンの前から動かないことがあります。主婦目線で見れば、早くお風呂に入ってほしい、そのままコタツで(エアコンの下で)寝てしまってほしくない、などとイライラしがちです(コタツで寝入ってしまった夫を蹴飛ばして起こしてました、と苦笑しながら言っていた女性もいました)。

 でも、精いっぱい普通に振る舞ってはいるものの、実は彼は動く元気がないのかもしれません。私自身、後になって主人が「こんなことがあったんだ」と話してくれた時、「ああ、そうだったのか。(「早く~して」などと促して)悪かったなぁ」と、こっそり反省したことがあります。

 夫婦共通の悩みがあるとき、妻もしんどいけれど、表には出さずとも夫もしんどい、あるいは一家の長として、夫の方がずっとしんどい。榎本牧師夫人のお父様の助言を心に留めて、いい時も悪い時も、夫婦分かり合い、支え合っていきたいものです。