https://www.youtube.com/watch?v=dC49n0-NQXs

青少年事情と教育を考える 252
小児期逆境体験を乗り越えるには

ナビゲーター:中田 孝誠

 前回、法務省が公表した『犯罪白書』(令和5年版)の特集「非行少年と生育環境」から、幼少期の虐待や家庭内暴力といった小児期逆境体験(ACE)が少年非行に影響を与えている可能性について紹介しました。

 ACEの研究は1990年代に米国で始まったものです。虐待や暴言、育児放棄、両親(夫婦)のけんか、親のアルコール依存などが子供の心身の健康に重大な影響を与えるとされています。
 こうしたトラウマの経験が大きなストレスとなり、成人になって依存症などの問題行動や、心臓病や精神疾患などの病気にかかる可能性が高まるというのです。

 では、こうしたACEから立ち直るためにどうしたらいいのでしょうか。
 米国の事例をまとめた書籍『小児期トラウマがもたらす病―ACEの実態と対策』(パンローリング)で、回復のための専門家のアドバイスを紹介しています。

 例えば、幼少期に虐待を受けて後遺症に悩む親が子育ての際に心がけたいことを次のように述べています。

 一つは、「4つの『S』を子どもに植えつける」です。子供が「気にかけられている(seen)」「安全(safe)」「落ち着かせてくれる(soothed)」「守られている(secure)」と感じられるように心がけるというものです。

 また、「子どもの目を見る」こと。子供に向き合って真っすぐ目を見つめることで、子供は心配されていると感じて安心感を抱きます。

 そして、「幸せを増幅する」こと。毎日の生活で意義のある経験を見分け、それを感謝、共感、回復力、自尊心といった内面の力に変えていきます。

 ポジティブな経験に意識を向け続けることや、自分が気付いた幸せを心に留めることが大事だというわけです。
 また子供が見せている長所を挙げて「がんばっているね」「本当に責任感が強いね」と具体的に強調し、親がちゃんと気付いていることを子供に知らせることも大切です。

 この他、「自制心を失ったらすぐに謝る」「20秒のハグの驚くべきパワー」「『起きていること』を隠さずに話す」といったことが挙げられています。

 これらは後遺症に悩む親に限らず、どんな親であっても大切にしたいことばかりです。
 ACEの研究は、家庭と親子関係の再生が現代社会にとって最も重要な課題であることを示しているといえるでしょう。