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脱会説得の宗教的背景 10
脅かされた「史的イエス」(新約聖書)への確信

教理研究院院長
太田 朝久

 YouTubeチャンネル「我々の視点」で公開中のシリーズ、「脱会説得の宗教的背景/世界平和を構築する『統一原理』~比較宗教の観点から~」のテキスト版を毎週火曜日配信(予定)でお届けします。
 講師は、世界平和統一家庭連合教理研究院院長の太田朝久(ともひさ)氏です。動画版も併せてご活用ください。

新約聖書に書かれたイエスの生涯は歴史的事実なのか
 キリスト教では、新約聖書について深刻な問題があります。それは「史的イエス」の問題です。
 新約聖書に書かれた「イエスの生涯」は、果たして歴史的事実(史的イエス)なのか、教理的に作られたストーリー(ケリュグマ〈宣教〉)なのかという問題です。

 19世紀頃まで、新約聖書は「神の霊感を受けて書かれた」(テモテ316)書物で、“誤りなき真理”と信じられていました。
 ところが近代、「聖書批評学」によって理性的なメスが加えられると、新約聖書に対する「史的イエス」の確信が脅かされたのです。

 問題提起となったのは、「イエス伝研究」です。
 クリスチャンが関心を持つのは“イエスの生涯”です。
 イエスはどのような生涯を歩まれ、十字架の道へ行かれたのかに関心を持ちます。それで「イエス伝」(イエスの生涯)を知りたいと思います。

 「イエス伝」を知る歴史的資料が福音書です。そこでマタイ伝、マルコ伝、ルカ伝、ヨハネ伝の四つの福音書を参考に「イエス伝」をまとめていかざるを得ません。
 ところが四つの福音書の間に矛盾があり、「イエス伝」を一つにまとめることができないのです。

イエス伝研究について
 初期の頃は「イエス伝」をまとめるとき、ヨハネ伝の話の枠組みに、マタイ伝、マルコ伝、ルカ伝という共観福音書(共通した記述の福音書)の内容を入れ込み、一つの「イエス伝」を書こうとしました。
 ヨハネ伝の記述は、他の福音書よりも長い3年間の話になっているためです。

 福音書を比較すると“決定的な違い”が存在します。
 マタイ・マルコ・ルカの共観福音書のイエスの生涯は、過越の祭が1回しか出てきません。ヨハネ伝は、過越の祭が3回出てきて、イエスは3年近く活動したと考えられます。
 このように、ヨハネ伝と共観福音書ではイエスの生涯の記述が根本的に異なっています。

 19世紀、DF・シュトラウス(18081874)が『イエス伝』(1835年)を書きました。
 彼はイエス伝研究に対し、ヨハネ伝を用いることに異議を唱えたのです。
 確かに、ヨハネ伝は、神学がベースとなって編さんされ、歴史的事実としてのイエスの生涯(史的イエス)を知り得ないと見なされるのです。

 ヨハネ伝は、史実性が乏しいのではないかということで、イエス伝研究の対象から外されるようになります。
 イエス伝研究は、共観福音書(マタイ伝、マルコ伝、ルカ伝)で研究していくようになりました。

(続く)

※動画版「脱会説得の宗教的背景 第4回『リベラル』と『福音派』との和合(新約聖書学)」はこちらから