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【B-Life『世界家庭』コーナー】
砂漠と炎熱のイスラムの国から
北アフリカ・スーダン日誌⑧
満月の夜になると、どろぼうがやって来る!

 2015年から2016年まで『トゥデイズ・ワールド ジャパン』と『世界家庭』に掲載された懐かしのエッセー「砂漠と炎熱のイスラムの国から 北アフリカ・スーダン日誌」を、特別にBlessed Lifeでお届けします!

 筆者の山田三穂さんは、6000双のスーダン・日本家庭です。

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 スーダンでは冬の期間(12月〜2月)を除いては、ほとんどの家庭が日没後は庭で過ごします。

 夕方になると部屋から家族のベッドを庭に運び出し、テーブルを囲むように並べます。ベッドがいすの代わりとなって食事やお茶、おしゃべりを楽しみながら、そのまま眠りに就くのです。昼の間、燃えるような日ざしを受けた家の中は、夜になると、まるでサウナ状態だからです。

 また、停電の多いスーダンでは照明にろうそくを使うのですが、細身のろうそくに火をともすと、あっという間にぐにゃりと曲がって、先の方がテーブルに付いて消えてしまうくらい室内は暑いのです。

 そのため、夜の庭は客間であり、居間であり、寝室になるのです。月明かりが照明の役割をしてくれます。

 夜、砂漠から吹く風は昼間の熱風とは違って涼気を運んでくれます。また、乾燥しているため、夜露にぬれる心配もありません。

 雲のない夜は満天の星がキラキラと輝き、こうこうと照る月を見ているとロマンチックな気分にもなって、気持ち良い眠りへと誘われるのです。

▲夜は涼しい野外で過ごすスーダンの人々

▲親族(女性のみ)と共に食事をする著者(左端)

 一方、月明かりは、どろぼうにとって懐中電灯のようなものです。無人の室内に月の光が差し込んで仕事がしやすくなるのでしょう。

 特に、満月の夜は稼ぎ時のようで、私はスーダンに来てから、満月の夜に5度、盗難に遭いました。

 1975年、スーダンに入国したO先生(1800家庭)に続き、約4年後にO先生の夫人が入国しました。

 私が1987年にお嫁に来たとき、迎えてくれた夫人から最初に聞かされたのが、「あなたの夫から、『月夜の晩には、どろぼうが来るから気をつけるように』と言われたことがあってね。それが、その言葉どおりにやってきたのよ。特に、満月の夜に」という話でした。

 そのときの私は「へえ〜、そんなことがあるんだ」と他人事のように思っていました。

 最初の被害は夫のかばんでした。2度目は、居間にあった30インチのブラウン管のテレビです。寝室の窓が外されていたので、そこから入ったようでした。

 そのテレビは私の父が、「孫たちに日本のアニメのビデオを送ってあげたいから、まずテレビを買いなさい」と言って送ってくれたお金で買った物でした。しかし、故障して修理も不可能なほどで処理に困っていたところでしたから、片付けてもらったようなものです。

 それにしても、そのテレビは男性1人で運ぶには重いので、どろぼうはペアではなかったかと思われます。

 3度目は、私のかばんでした。その中にはパスポートが入っていたので、1週間待っても出てこなければ再発行の手続きをしようと考えていたところ、近くの農場に落ちていたといって地元の人が届けてくれたのです。

 4度目は、五男の枕元に置いてあったパソコンです。このときは、ふと月明かりを背にして誰かが立っているのに気づき、私が「どろぼう!」と叫ぶと、その声で目を覚ました息子たちがどろぼうを追いかけたのですが、既に遅しでした。

 自宅のあるハルツーム市(首都)の治安は、他のアフリカ諸国と比べて、いいほうです。空き巣や窃盗などはあっても、殺人のような凶悪犯罪は聞いたことがありません。あるアメリカ人はニューヨークやロサンゼルスなどより、ずっと安全だと言っていました。

 凶悪犯罪が少ないのは、イスラム法で罰則(窃盗は足を切断する)が定められていることもありますが、スーダン人の良心的な人柄によるところも大きいのではないかと思います。

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(この記事は、『世界家庭』2016年4月号に掲載されたものです)