https://www.kogensha.jp/shop/detail.php?id=4161

青少年事情と教育を考える 232
「包括的性教育」と「はどめ規定」

ナビゲーター:中田 孝誠

 前回、先進7カ国(G7)保健相会合(5月13~14日、長崎市)の宣言文を取り上げました。
 宣言の中に「多様な観点から包括して行う性教育」という一文があることから、一部メディアは「日本も包括的性教育の推進に取り組むことを宣言」したと述べています(東京新聞6月6日付)。

 包括的性教育は、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」によるもので、「子どもや若者が、人生において、責任ある選択をするための、知識やスキルを学ぶことが重要」で、「生殖器官や妊娠についての知識の教育だけでなく、性交、避妊、ジェンダー、人権、多様性、人間関係、性暴力の防止なども含めた『包括的性教育』」である(さいたま市男女共同参画推進センター)といった紹介がなされています。

 また上記ガイダンスでは、例えば5〜8歳で教える内容として、家族や結婚の概念は多様であること、ジェンダーとセックス(生物学的性)の違い、妊娠の過程と性行為などが示されています。

 ただし、性教育について学習指導要領には「はどめ規定」があります。
 これは、小学5年の理科で「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」、中学1年の保健体育で「妊娠の経過(性交)は取り扱わないものとする」という二つの規定です。

 包括的性教育の推進を訴える人たちは、「はどめ規定」があることにより、子供たちは性や妊娠出産に関する正しい知識を学ぶ機会が不足していると非難しています。

 それに対して、永岡文科相は昨年10月、性教育は現在の学習指導要領に基づいた指導に努めると述べ、はどめ規定を維持することを明らかにしています。

 「はどめ規定」は1998年に提示されたものですが、中央教育審議会の専門部会が3年間にわたって審議を重ねた上で出されたものです。
 同部会では、性教育を行う場合は人間関係についての理解などの上に行うべきで、安易に具体的な避妊方法の指導などに走るべきでないこと、集団で一律に指導する内容と個々の児童生徒の抱える問題に応じて指導する内容の区別を明確にして実施すべき、といった意見で一致しました。

 こうした議論を経て出された「はどめ規定」を、反論の根拠を示さないまま撤廃を求めることには問題があるという指摘もあります(モラロジー道徳教育財団「道徳サロン高橋史朗91」)。

 高橋教授はまた、包括的性教育が道徳教育や性道徳を否定したもので思想的に問題があること、性行動が慎重になるという点では性的自己抑制教育の方が効果的であることなども上記コラムで述べています。

 性教育は人間としての人格形成に関わる内容であり、子供の発達段階を踏まえることが重要です。その意味で、親(家庭)の同意や理解を求めることが必要であり、親の教育権が当然重視されるべきでしょう。