続・夫婦愛を育む 6
弱きを助ける

ナビゲーター:橘 幸世

 Blessed Lifeの人気エッセイスト、橘幸世さんによるエッセー「続・夫婦愛を育む」をお届けします

 さまざまな問題行動を起こす青少年に対応し、彼らを取り締まるのではなく、立ち直りを支援する“少年育成指導官”という警察職員が存在することを、NHK『プロフェッショナル』(20235月9日放送)を見て初めて知りました。

 そこで紹介された堀井智帆さんは、とても警察の人とは思えない外見で、子供たちの中にぐいぐい入っていきます。
 ヤンキーたちから「先生」と呼ばれ、“悪ガキどものお母さん”といった存在。その信念や奮闘ぶりに感銘を受けたのはもちろんですが、何より私の心に残ったのは、彼女の生きざまの原点とも言える、父親でした。

 彼女のお父さんは彼女が中学生の時、交通事故で左目を失明してしまいます。事故の加害者は、まだ幼い子供を3人抱えて多額の賠償金を背負い、途方に暮れていました。そんな彼にお父さんは、「自分は片目を失ってもまだ働ける。(あなたには)小さい子供が3人いてお金かかるんだから。賠償金は1円もいらない」と言ったのです。

 衝撃でした。
 片目を失うとは大変なハンディです。自身の子供もまだ中学生。それでも、加害者の状況を思って一銭も受け取りませんでした。
 「そんな父や母から、弱い立場の人を助けなきゃいけない、というメッセージをもらって自分は育った」と智帆さん。
 「父や母から」ということは、父親の判断を、母親も受け入れたのでしょう。ならばこそ、そんな両親から愛情を受けて育った娘(智帆さん)も自然と受け入れている…!

 一見普通の家族のようで、天から見たら、すごい家族だと思います。
 自分をその立場に置いてみても(被害者本人、その家族いずれの立場でも)、同様にできる自信はありません。百歩譲って、形をまねしても心がすっきりついていくでしょうか。

 話は変わりますが、先月来スーダンの内戦が報じられています。この冬にスーダンの青年を主人公とした物語を読んでいた分、気になります。
 その本には、村を焼かれ家族を殺され、何日も飲まず食わずで歩き続けてようやく難民キャンプにたどり着いた女子供たちの様子が描かれていました。

 強く印象に残ったのが、難民キャンプで働く先進国の人たちの姿です。
 彼らは何不自由ない生活を離れ、一歩間違えば自分にも危害が及びかねない劣悪な環境に身を置き、終わりの見えない支援活動に励んでいます。増え続ける難民の一人一人に丁寧に対応している精神力は並大抵のものではありません。

 余った中から分け与えるのではなく、身を削って与える人々。

 20代の時、所属していた部署の先輩が、おしゃれな上下の服をポンと私にくれたことがありました。
 知り合って日も浅い時のこと。本当にびっくりしました。物が決して豊かではなかった時代だからこそ、忘れられません。

 真の愛、無償の愛など、言葉は知って久しい私ですが、実体では到底及ばないと感じる人がたくさんいます。わずかずつでも、そんな人たちに倣っていきたいと思っています。まずは自分の足元から。