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続・夫婦愛を育む 3
義母の度量

ナビゲーター:橘 幸世

 「夫婦愛を育む」シリーズのファンの皆さま、お待たせいたしました!
 橘幸世さんによるエッセーが、「続・夫婦愛を育む」のタイトルで配信(不定期)されることとなりました。

 都会から地方に移住した若者に焦点を当てた番組、NHKの『いい移住』。2月28日放送分は愛知県豊田市の山里が舞台でした。

 冒頭古民家カフェから始まったので、移住して始めたんだなと、少なからず既視感を覚えました。が、実はそこは単なるカフェではありませんでした。
 カフェの主である女性がそこに至るまでのストーリーは、全く想像を超えるものでした。

 市街地で働いていた彼女でしたが、数年前膵臓(すいぞう)がんと診断され、余命3カ月を言い渡されます。膵臓がんは、がんの中でも生存率が低いことで知られています。そんな彼女に、プロポーズする男性がいました。全てを承知で。

 それだけではありません。
 当然親には反対されるだろうと覚悟して、二人で彼の実家に報告に行くと、彼の母は彼女にこのように話します。

 「うちの息子と結婚してやってください」

 息子の器も大きいけれど、母親の器はさらにその上をいっている!

 番組では若い二人がそのシーンを述懐するのみで、当時の母親の思いを尋ねるところはなかったのが、私としてはとても残念です。
 あるだろう複雑な思いをのみ込み、若い二人の思いを尊重して、結婚することを受け入れるだけでも、十分“できた”親だと思います。

 彼の母親は、別次元でした。
 あくまで私の想像ですが、お嫁さんが病気のことで負い目を感じることがないように、親の側から頼み込んだという形を取ったのかもしれません。
 自分が配偶者として、あるいは親として同様の立場に立ったら、…どうでしょう?

 晴れて夫婦となった二人。とはいえ、妻の治療は続きます。一時は体重が30㎏台に落ちたこともあったそうです。
 妻の体調が良い日には、夫は気分転換にと自然の中に連れて行きました。すると少しずつ体調が回復していきます(大きな愛が起こした奇跡、と私は勝手に思っています)。稲を植える農業体験にも夫婦で参加しました。

 ところが、自分たちが植えた稲が収穫直前にイノシシに荒らされてしまいます。そこで深刻な獣害問題を身近に知ることとなりました。
 田畑を荒らすイノシシや鹿など害獣を駆除する手が、その山里では圧倒的に不足していると知った彼女は、それならば自分がやろうと、未知の世界に飛び込みます。ハンターの資格を取って移住したのです。

 “もらった”命を人のために役立てたいと、創意工夫を凝らし、さまざまな形で山里に貢献しています。
 人間の都合で奪った命は極力無駄にしたくないと、駆除した動物を破棄するのではなく、解体し自身のカフェで料理として提供。命の尊さを教える場を設けたり、獣害自体を減らす工夫を地域の人と行ったりしていて、見事というばかりです。

 番組では妻にスポットライトが当たっていましたが、忘れてならないのは、そんな妻に寄り添い続ける夫。夫あればこその今の妻です。