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愛の勝利者ヤコブ 5

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「愛の勝利者ヤコブ」を毎週月曜日配信(予定)でお届けします。
 どの聖書物語作者も解明し得なかったヤコブの生涯が、著者の豊かな聖書知識と想像力で、現代にも通じる人生の勝利パターンとしてリアルに再現されました。(一部、編集部が加筆・修正)

野村 健二・著

(光言社・刊『愛の勝利者ヤコブ-神の祝福と約束の成就-』より)

アブラハムの召命①

 さて、このヤコブという人物がどのような経路で、どのような状況のもとに生まれてきたのかが分からなければ、ヤコブという人物とその生涯の意義を理解することは全く不可能となるであろう。そこで、アブラハムからイサク、ヤコブとどう摂理が展開されていったかを、ごくかいつまんで紹介しておく必要があると思う。

 アブラハムの父テラは、ユフラテ川がペルシャ湾に注ぎこむ河口近くにあるカルデア(シュメール)のウルという街にいた。ウルはエデンの園があったといわれる、いわゆる「肥沃(ひよく)な三日月地帯」に栄えた人類最古のメソポタミア文明の中心地であり、その少し上流にバビロンがある。テラは聖書の記述によれば、箱舟で有名なノアの息子セムから数えて10代目の大族長であり、その一族は遊牧民で、一説によれば偶像商であったともいわれる(ヨシュア2423)。

 テラはアブラム(のちのアブラハム)、ナホル、ハランという三人の男児を生んだ。ハランはロトを生んだのち父に先立って死ぬ。テラはカナン(今のパレスチナ)に行こうとして、その子アブラムとその妻サライ、ならびにハランの遺児ロトを連れてウルを出たが、そこまでたどり着けないまま東西南北の隊商路の中心、ハランに住みつき、そこで亡くなったという(創世記22731)。

 ここまでがいわば舞台造りとでもいうべきもので、ウルで生まれ、ハランで育ったアブラムに対して、神は次のように呼びかけることによって、罪悪と苦悩のうちにある人類すべてを救わんがための新しい摂理を開始される。

 「あなたは国を出て、親族に別れ、父の家を離れ、わたしが示す地に行きなさい。わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大きくしよう。あなたは祝福の基となるであろう……」(創世記1212)。

 このように呼びかけられただけで、アブラムは何の疑うところもなく妻サライと弟の遺児ロト、ならびに全財産、ハランで得た大勢の従者たちを皆引き連れてカナンへと旅立った。険しい山岳砂漠地帯を踏破してカナンのシケムという所まで来て、「モレのテレビン(樫の一種)の木」と呼ばれる大木のもとまで来ると、再び神から「あなたの子孫にこの地を与える」と声がかかった。アブラムは感謝してそこに祭壇を築き、ついでそこからベテルの東の山に移って天幕を張って住んだ。

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 次回は、「アブラハムの召命②」をお届けします。