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中和新聞セレクト Vol.4
混迷する現代社会Ⅱ

 毎週2回(火、金)、さまざまなコンテンツを配信している『中和新聞』。Blessed Life編集部が同記事のアーカイブスからおすすめのコンテンツをセレクトして皆さまに紹介します!
  第4弾は「混迷する現代社会Ⅱ」(21世紀の家族を考える会)のシリーズを毎週水曜日(予定)にお届けします。

 同コンテンツは『中和新聞』2020年5月から連載中のシリーズです。

第3回 深刻な子供たちの養育環境の悪化

(中和新聞 2020年9月15日 通巻1293号より)

 本シリーズでは、現代社会が抱えるさまざまな問題点を分析し、社会や家庭における正しい観点(価値観)や方向性を提示します。今回は、急速に悪化の一途をたどる子供への虐待問題について考えます。(編集部)

 先回は少子化・人口減少が日本の国力を著しく損なっていることを説明しましたが、さらにもう一つ、大きな問題があります。それは、その少ない子供たちの養育環境が急速に悪化しているという事実です。

 その現れが児童虐待の急増であることは言うまでもありません。子供の数が急速に減る一方で、児童相談所(児相)の虐待相談対応件数、警察による検挙件数は共に右肩上がりで増加しています。児相の対応件数についていえば、平成の始めは年間1,000件程度だったものが平成302018)年には約16万件に達しました。ここには社会の意識の高まりによって通報が増えた側面もあると言われていますが、それにしてもこの増え方は異常です。

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 虐待の結果、死亡に至るケースも後を絶ちません。20183月、東京都目黒区で、当時5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが11食しか与えられず、殴打や冷水を浴びせられるなどの虐待を受けた末に亡くなりました。この事件では「もうおねがい、ゆるしてください」と幼い文字で書かれた反省文が公表されて人々の涙を誘うとともに、転居の際の児相の連携不足も問題となりました。そして20191月には、千葉県野田市で当時10歳の栗原心愛(みあ)ちゃんが虐待を受けた末に死亡。学校の作文などでSOSを訴えていた心愛ちゃんを救えなかったことで、学校、児相など行政側の対応に大きな批判が集まりました。

 危機感を感じた政府は急遽、不登校状態にある全ての子供を対象に緊急調査を実施。6月には「体罰禁止」を明記した改正児童虐待防止法が成立しました(20204月から施行)。

■ほぼ毎日のように虐待死は起こっている
 ちなみに虐待死の数自体は2006年の111人から減少傾向にあり、最近はほぼ5070人の間で推移しています。虐待が増える一方で虐待死が減少しているのは意外に思えますが、これが積極的な通報、対応の成果だとすれば歓迎すべき変化です。しかし、それでもなお年間数十人の子供の命が失われていることは軽視できません。

 また、実際の虐待死の数は統計上の数字よりもはるかに多いと見られています。厚生労働省と日本小児科学会が2014年~16年に亡くなった18歳未満の子供を調べたところ、虐待死が疑われるケースが政府統計の35倍に上ると推計されたのです。これを最近の数字に当てはめると、年間、少なくとも180300人以上の子供が虐待死している計算になります。ほぼ毎日のように、貴い命が虐待によって奪われているのです。こうした事実に、私たちはもっと真剣に向き合わなければなりません。

 なぜ、虐待は起こるのでしょうか。『家族心理学 第2版』(有斐閣ブックス)では、虐待を起こす親が抱える問題について、「経済的問題」「母親の自尊感情の低下」「コミュニティーからの孤立」「親の生育歴・世代間連鎖の問題」「産後うつや依存症など親自身の問題」「予期しない妊娠と若年妊娠」「不和、DV(ドメスティック・バイオレンス)など夫婦・家族関係」を列挙しています。虐待をなくすためには、こうした親たちが抱える課題を具体的に解決していく必要があるのです。

■夫婦愛の強化こそが真の解決法
 これらの課題から浮かび上がってくるのは、夫婦関係および親族・地域など、共同体によるサポート体制が抱える課題です。特に夫婦関係の悪化は、子供の養育環境の劣化にダイレクトに結びつきます。DVは言うまでもなく、夫婦間の不和は、母親の自尊感情を低下させる大きな要因の一つです。

 経済問題についても離婚の増加が大きな影を落としています。大人が2人以上いる家庭の子供の貧困率は1割ほどですが、ひとり親になると50%を超えます。予期しない妊娠の問題と合わせ、上記の課題の半分以上が、子供の命を生み出した男女(夫婦)の関係性に起因しているのです。

 最近起こった二つの事件も、離婚による孤立や夫婦間の不和が大きな要因となっていました。93日、香川県高松市で6歳と3歳の子供を15時間以上も車に放置し、熱中症で死亡させた母親が逮捕されました。その間、母親は家庭を持つ身でありながら繁華街の飲食店を少なくとも3軒以上飲み歩き、その後は不倫相手と見られる男性宅で過ごしていました。

 恋愛に夢中になって子供を見捨てたという意味では、6月に東京都大田区蒲田で起きた虐待死の事件も同様です。離婚してシングルマザーとなっていた母親は、交際相手に会うために鹿児島に旅行。「お茶とお菓子を置き、豆電球とエアコンをつけておいた」(母親の説明)だけで3歳の娘、稀華(のあ)ちゃんを8日間も放置したのです。稀華ちゃんは飢餓と脱水症状で衰弱死。母親が帰宅したときには、ゴミだらけの居間のマットレスの上で冷たくなっていました。

 米国の研究では実の両親に育てられる子供と比較して、離婚・再婚、ひとり親家庭では虐待発生率が34倍に、恋人と同棲するひとり親家庭では10倍に達することが分かっています。子供を生み出した男女(夫婦)の愛が冷えるとき、その愛の結果としての命も軽んじられてしまうのです。子供の養育環境を考えるとき、夫婦愛の立て直し、強化こそが急務です。非婚・晩婚化の問題と合わせ、男女の愛が壊れていることこそが、日本に国難をもたらしている根本的な原因なのです。

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 次回は、「コロナ禍で浮き彫りになった『家庭の大切さ』」をお届けします。

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