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中和新聞セレクト Vol.4
混迷する現代社会Ⅱ

 毎週2回(火、金)、さまざまなコンテンツを配信している『中和新聞』。Blessed Life編集部が同記事のアーカイブスからおすすめのコンテンツをセレクトして皆さまに紹介します!
  第4弾は「混迷する現代社会Ⅱ」(21世紀の家族を考える会)のシリーズを毎週水曜日(予定)にお届けします。

 同コンテンツは『中和新聞』2020年5月から連載中のシリーズです。

第2回 人口減少による国力低下対策に「待ったなし」

(中和新聞 2020年7月10日 通巻1276号より)

 本シリーズでは、現代社会が抱えるさまざまな問題点を分析し、社会や家庭における正しい観点(価値観)や方向性を提示します。今回は、日本において急速に進む人口減少のリスクについて考えます。(編集部)

■出生率が改善されない根本的な理由
 全国的な緊急事態宣言が解除された直後の529日、第4次「少子化社会対策大綱」が閣議決定されました。新型コロナウイルスによる感染拡大自体は大きな国難ですが、一方で、少子化による急速な高齢化と人口減少も、静かに進行する、より深刻な国難です。

 今回の大綱でも、少子化がもたらすリスクを列挙しつつ、「時間的猶予はない」と強い危機感が示されました。ちなみにその冒頭で、2019年の出生数が864000人と過去最少となったことに触れています。従来の予測では90万人を割り込むのは2020年、86万人台になるのは2021年と見られていたため、少子化のスピードは予想を超えています。こうしたことも政府の強い危機感につながっているでしょう。

 しかし一方で、並べられた施策には、それほど新鮮味はありません。実際に、政策としてできることは限られているからです。ちなみに、「待機児童対策」として取り組まれてきた保育所増設については、2013年からの5年間だけで50万人も受け入れ枠を拡大しました。取得率の低さが話題となる男性の育休も、期間や給付額など、制度設計自体は、国際連合児童基金(ユニセフ)から先進41か国中第1位の評価を受けています。

 地方自治体も存続をかけて、さまざまな知恵を凝らした婚活イベントを実施してきました。それでも出生率の改善が見られないのは、もっと他の根本的な原因があるからでしょう。

 結局、大綱にも記されているように「結婚、妊娠・出産、子育ては個人の自由な意思決定に基づくもの」であり、政府がどんなに危機感を抱いても、国民自身に主体的な動機が生まれなければ、出生率を改善することはできないのです。

■家族、子供を最優先に考えるイスラエル
 出生率について考えるために、外国の例を見てみましょう。大綱では、出生率改善に成功した国としてフランス、スウェーデンなどを挙げています。ただ、両国共に、特に、ここ23年は再び出生率が低下傾向にあります。

 本当の意味で出生率が高い水準を保っているのはイスラエルで、2017年の出生率は3.11と先進国では突出した高さを誇っています。

 イスラエルは経済も順調で、国内総生産(GDP)成長率(2019)は3.13%と日本の0.89%を大きく上回っており、一人当たりGDP2018)も41700ドルで日本の3万9300ドルを抜き去りました。つまり、経済成長と高い出生率を同時に達成している、世界でほぼ唯一の国なのです。

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 なぜ、イスラエルの出生率はこんなに高いのでしょうか? そこには国民の持つ価値観が大きく影響しています。具体的には「多産を神の祝福と捉える価値観」および「安全保障に対する強い危機感」の二つです。

 イスラエルの土台にはユダヤ教、旧約聖書があります。彼らの信仰的な祖先アブラハムが「あなたの子孫は、星の数ほどに多くなる」と祝福を受けたことでも知られるように、旧約聖書では、多くの子供を持つことが人生の最大の幸福の一つと考えられています。実際に、出生率を牽引しているのは聖書の民であるユダヤ教徒とイスラム教徒であり、特に超正統派ユダヤ教徒の女性は、平均して6.2人の子供を産んでいます。

 帰宅のラッシュアワーも午後34時で、夕方以降と週末の安息日は、家族と一緒に過ごす時間として大切にされています。ビジネスパーソンも人生最大の成功について聞かれると、口をそろえて「素敵な配偶者に出会い、素敵な子供たちに恵まれたこと」と答えるといいます。

 ひるがえって日本はどうでしょうか? 2018年に実施されたNHKの意識調査では「必ずしも結婚する必要はない」と答える割合が約7割(68%)に達しました。結婚や家族に対する両国民の優先度の違いは明らかです。

■国力衰退は安全保障上の危機を招く
 安全保障に対するイスラエルの危機意識の強さには、彼らが通過してきた悲惨な歴史が影響しています。彼らは2000年前に祖国を失い、各地でマイノリティーとして差別や偏見にさらされてきました。その中でも民族としてのアイデンティティーを守り、文化を残していくために、次世代を産み育てることに最大限の関心を注いできたのです。

 1948年の独立後も周囲をイスラム国家に囲まれ、常に国家存立の危機にさらされてきました。国内でもユダヤ人が多数派を維持するために、人口増が至上命題となっています。こうした強い危機意識が、高い出生率を支えるもう一つの要因なのです。

 実は、この点は欧米先進国で比較的高い出生率を維持するフランスにも共通しています。ドイツとの戦争に苦しんできたフランスは、国力維持のために人口問題を重視するという国民的なコンセンサスができており、歴代首脳も「出産奨励主義者」を公言しています。

 一方、日本ではいまだに政治家が出産を奨励するような発言をすると、「戦前の『産めよ、増やせよ』の軍国主義への回帰」だと批判されてしまいます。しかし、人口が減少し、国力が衰退すれば、国際的地位の低下を招き、安全保障上も大きなリスクを背負うことになります。そろそろ日本国民も平和と安全がただで手に入るという意識を脱するべきでしょう。

 国力の再建に向けて「時間的猶予はない」ことを国民的なコンセンサスにしなければなりません。

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 次回は、「深刻な子供たちの養育環境の悪化」をお届けします。

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