世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

8回 北朝鮮、米朝首脳会談を再考?

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 「世界はどこに向かうのか ~情報分析者の視点~ 」は、毎週火曜日の配信を予定しています。前週の内外情勢のポイントとなる動向を分析、解説するコーナーです。

 514日から20日を振り返ります。

 この間に、駐イスラエル米国大使館をエルサレムに移転(14日)。北朝鮮・金桂官第一外務次官、米朝首脳会談開催を再考する可能性を示唆。北朝鮮、南北高級会談中止を一方的に通知(16日)。「太平洋・島サミット」(福島県いわき市)が開幕(18日)。米国、高校乱射事件(テキサス州サンタフェ)10人死亡(19日)。英国のヘンリー王子と米国人女優、メーガン・マークルさんの結婚式(19日)、などがありました。

 今回は、612日に開催される米朝首脳会談を巡る動きを説明します。

 対米外交の実務専門家・金桂官第一外務次官が16日、談話を発表し、米大統領安全保障担当補佐官のボルトン氏を痛烈に批判しました。ボルトン氏の、「リビア方式」といわれる大量破壊兵器廃棄のやり方を非核化の軸とすべきとの主張を非難したのです。そして、米朝首脳会談の開催を再考しなければならない、とまで述べたのです。

 リビア方式というのは、2003年に当時の最高指導者カダフィ大佐が、アメリカの圧力を受けて自国の核兵器開発を含む大量破壊兵器の廃棄を決断し、実行したプロセスをいいます。米英の情報機関と国際原子力機関が協力しての査察、および核関連設備の全面接収による核計画の完全放棄が確認されたのちに、制裁解除と経済支援を行った方式です。

 金正恩氏は326日、習近平主席に、米韓に対して「段階的」で「同時並行的な措置」を求めると発言しました。しかしこの方式は、1994年の「米朝枠組み合意」や2005年の「6者協議共同声明」において合意した内容であり、ことごとく失敗したのです。

 これらの教訓を踏まえてボルトン氏は、「先に廃棄、後に制裁解除、経済協力」の方式を非核化議論の中心に置かねばならないと主張したわけです。

 トランプ大統領は17日、リビア方式について、「北朝鮮について考えるとき、全く考えていないモデルだ」と明言しました。その理由として、カダフィ政権との間では、体制保証の取引はなかったと指摘しました。
 この発言は「先に廃棄、後に制裁解除、経済協力」方式を否定したわけではありません。多くのメディアはリビア方式の中身まで否定したかのように報道しましたが、そうではありません。米国と北朝鮮の駆け引きはさらに続くでしょう。