世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

7回 変わる「中東」関係図

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 「世界はどこに向かうのか ~情報分析者の視点~ 」は、毎週火曜日の配信を予定しています。前週の内外情勢のポイントとなる動向を分析、解説するコーナーです。

 57日から13日を振り返ります。

 主な出来事を挙げてみましょう。
 トランプ大統領が「イラン核合意」からの離脱を表明(180日間の交渉期間を経て経済制裁を再開)(8日)。ポンペオ米国務長官が訪朝し米国人3人を解放(9日)。マレーシア下院選挙で野党連合(マハティール元首相率いる)が勝利(9日)。トランプ大統領が米朝首脳会談は612日開催、場所はシンガポールと発表(10日)、などがありました。

 今回は中東諸国間の関係を、米トランプ大統領の「イラン核合意」離脱表明に対する対応を中心に説明してみます。

 まず、「イラン核合意」ですが、2015年に米英仏ロ中(国連安保理常任理事国)と独の6カ国が核兵器開発の疑念がもたれるイランと結んだ合意です。イランが核開発を大幅に制限する見返りに米欧が経済制裁を緩和するという内容になっています。
 イランと敵対するイスラエルは合意に反発し、オバマ前政権との関係悪化につながりました。また、トランプ大統領は大統領選挙中から「(イラン核合意には)致命的欠陥がある」として離脱を公約としていたのです。トランプ氏が指摘する欠陥とは、弾道ミサイル開発を制限対象としていないことや、2025年以降に段階的に核開発制限が解除されることなどです。

 米国の合意離脱の発表に対して、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)は支持を表明し、ヨルダンやシリア、トルコは反対を表明しました。もちろんイスラエルは支持です。
 アラブ諸国は1948年のイスラエル建国以降、イスラエルを「宿敵」とし「地中海に追い落とす」とのスローガンを共有してきました。その旗頭がエジプトでした。4次にわたる中東戦争では常にアラブ諸国を率いて戦ったのです。
 そのエジプトのエネルギー会社が今年2月、イスラエルから天然ガスを輸入する契約を結び、スンニ派の盟主サウジアラビアのムハンマド皇太子が4月、「イスラエルの人々は自国の土地で平和に生活する権利がある」と、米誌のインタビューで述べたのです。
 このような変化の背景には、イランの「大国化」への反発と、国内の混乱を収拾するためにイスラエルとの協力関係が必要であるとの認識があります。