世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

9回 やはり脅威、北朝鮮の外交力

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 「世界はどこに向かうのか ~情報分析者の視点~ 」は、毎週火曜日の配信を予定しています。前週の内外情勢のポイントとなる動向を分析、解説するコーナーです。

 521日から27日を振り返ります。

 主な出来事を挙げてみます。
 米国国防省、米海軍が主催する今夏の「リムパック(環太平洋合同演習)」への招待の取り消し発表(23日)。北、核実験場廃棄「式典」(24日)。トランプ大統領、「米朝会談」中止を公表(24日)。北、金桂寛外務第一次官が「談話」を発表(25日)。南北首脳会談(第2回目)を極秘裏に開催(26日)、などです。

 今回も米朝首脳会談に関する動きを解説します。北の非核化意思を表す「政治ショー」、豊渓里の核実験場の坑道爆破が24日、外国メディアを受け入れて行われました。しかし、かねて公表していた専門家を招待せず、かえって疑念が残る結果となりました。その直後、トランプ大統領は「米朝会談」の中止を表明したのです。

 決断の理由として、不完全な核実験場廃棄「式典」も挙げられますが、他に3点あります。
 まず、516日の金桂寛氏談話(米朝首脳会談を再考するという内容)、そして524日の崔善姫外務次官の談話です。ペンス副大統領を侮辱し、「米国が我々の善意を侮辱し、非道にふるまい続ける場合、朝米首脳会談を再考する問題を最高指導者(金正恩氏)に提起する」「会談の場で会うのか、核対核の対決の場で会うかは、全て米国の決心にかかっている」とまで批判したのです。
 そして3点目は、米朝会談のための実務者協議の場に、北朝鮮担当者がいくら待っても来ず、北朝鮮に要請書を送付しても返事さえなかったことです。
 ところが、トランプ氏が「中止」表明を行ってすぐ、金桂寛氏が談話を発表し、米国に翻意を促しました。同時に金正恩委員長は、文在寅大統領との首脳会談の開催を呼び掛けたのです。
 主要メディアは、一連の北朝鮮の動きを、「慌てた」とか「トランプに屈した」などと解説していますが、とてもそうは思えません。全てが612日シンガポールでの米朝会談に向かう、主導権争い、駆け引きとみるべきであると考えます。

 北朝鮮は対米交渉を有利に進めるため、中国と韓国を巧みに利用しています。二度の訪中、二度の南北首脳会談、いずれも、中国や韓国が対米関係で気まずくなり、北朝鮮との関わりで米国から疑念を抱かれるような状態になった時、一気に接近して取り込むのです。さらに駆け引きは激化することでしょう。