青少年事情と教育を考える 193
親子関係が揺らいでいる

ナビゲーター:中田 孝誠

 昨年(2021年)3月17日、同性婚訴訟に対する初めての判決が札幌地方裁判所で出されて1年が経過しました。
 裁判は原告側が控訴し、現在は札幌高裁で審理が行われています。東京など他の地裁でも今後判決が出されることになります。

 さて、報道によると、東京地裁の裁判では、国は婚姻制度の目的を「男性と女性が子を産み育てながら共同生活を送る関係に対し、特に法的保護を与えること」とし、子を産む意思や可能性がない男女も「自然的かつ基礎的な集団単位」として社会的承認があると説明しています。

 これに対して原告は、こうした国の主張は差別や偏見を助長するとして、婚姻の目的は「子をもつ意思や可能性にかかわらず、親密な二人の関係に法的な保護を与えること」にあると述べています。

 同性婚を法的に認めるべきという立場に立つ木村草太・東京都立大学教授は「札幌地裁判決により、争点は『婚姻と生殖の関係』に絞られた」と述べています(東京新聞2月15日付け「同性婚訴訟提訴から3年」)。

 ちなみに従来の法解釈では、婚姻に法的な保護が与えられているのは子供の養育や保護が目的であるというのが主流の解釈です。

 一方で気になるのは、原告側は同性カップルにも生殖補助医療で子をもうけ、子育てするケースがあると述べていることです(同)。

 つまり、「親密な二人の関係」にとどまらない事態が起きているわけです。
 実際、テレビでは、1人の子供とトランスジェンダーの父、パートナーの母、精子を提供した男性という3人の親の生活を取材した番組も放映されました。

 同性カップルに限りませんが、第三者の精子の提供による生殖補助医療には、現在でも自分の出自を知る権利など、大きな苦しみを背負う子供が多いことが問題になっています。

 また、同性婚ではありませんが、先日、男性から性別変更した女性が、自分の凍結精子でパートナーの女性との間に子供が生まれ、その親子関係の法的認知を求めた裁判の判決がありました。

 判決は、民法では父は男性、母は女性を前提としているため、性別変更した女性を法律上の父とは認めませんでした。
 難しい問題ですが、法的には間違った判決とは言えません。

 このように最近の問題を見ると、父親と母親と子供という親子関係が揺らいでいる、あるいは揺さぶられていると言わざるを得ません。こうしたことが子供にどのような影響を与えるのかが懸念されるところです。

 父親と母親のもとで育つことが子供の成長発達にとって最も重要であることは、人類の体験的な知恵として受け継がれてきました。
 もちろん例外的な親も増えていますから、そうした子供へのケアは必要ですが、今も多くの人たちは父母の存在の大切さを認識しています。

 親子関係や夫婦関係、さらにその関係が子供に与える影響について、私たちはもっと重要視すべきだと思います。