世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

習近平主席、目に余る五輪の政治利用

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、131日から26日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 IS(「イスラム国」)指導者が死亡、米大統領が発表(3日)。インド、北京冬季五輪外交ボイコットへ(3日)。米下院、対中競争法案を可決(4日)。中露首脳会談の開催(4日)。北京冬季五輪の開幕(4日)、などです。

 今回は、習近平主席の五輪外交を扱います。
 北京冬季五輪が24日、開幕しました。開会式は、中国の新疆(シンチャン)ウイグル自治区における人権侵害などに抗議の意を表す「外交ボイコット」によって、欧米諸国など(日本も含む)の首脳や閣僚が参加を拒否する中で行われました。17日間の「平和の祭典」がスタートしたのです。

 懸念された習政権による五輪の政治利用は、目に余るものがあります。
 開会式における聖火の最終ランナー二人のうち一人(女性)は新疆ウイグル自治区出身者でした。
 インドは、開幕直前の3日に「外交ボイコット」を表明しました。理由は、2020年の中印国境紛争で負傷した軍人が開会式で聖火ランナーの一人として走ることが分かったからです。

 このように政治利用は各所に見られるのですが、最大の政治利用は「中露首脳会談」です。開会式当日の4日、北京の釣魚台迎賓館で行われました。習氏にとって2年ぶりの対面での首脳会談となりました。
 「日経」は6日付の社説で「平和の祭典に軍靴の音さえ聞こえかねない国際政治の対決を持ちこんだ責任は重い」と批判しました。

 習氏の計らいでプーチン氏は参加できたのです。
 ロシアは今、国家ぐるみのドーピング違反で制裁を受けており、プーチン氏は主要な国際大会への出席を禁じられているのです。今回は、「例外規定」を用いた計らいがあって参加できたのです。

 両国とも、欧米諸国との対立関係の深刻さが増しており、その連携ぶりを示すことによってけん制する必要があったのです。欧米による「中国包囲網」の切り崩しです。
 また、習氏の思いの片隅に、ロシアが2008年北京五輪の開幕直前にジョージアに軍を投入した衝撃的な事件があったかもしれません。五輪を前後するロシアの軍事行動を抑える必要性があったのです。

 首脳会談後、「共同声明」が発表されました。そのポイントは以下の内容です。

▽中露の新型の国際関係は冷戦期の軍事・政治同盟を超えている。
▽民主主義や人権を口実にした内政干渉に反対する。
▽核心的利益、国家主権、領土の一体性について相互支援する。
▽ロシアは「一つの中国」の原則を確認、台湾の独立に反対する。
NATO(北大西洋条約機構)の拡大に反対、中国は欧州安保に関するロシアの提案を支持する。
▽米英豪による安保の枠組み「AUKUS」を懸念する。
▽福島第一原発の処理水の海洋放出を懸念する。
▽米国はアジア太平洋・欧州へのミサイル配備計画を放棄せよ。

 今回の会談が、中露関係がさらに深まる契機となる可能性があります。ウクライナ危機と台湾海峡危機、さらに朝鮮半島危機へと連動しないよう、抑止力を背景にした外交を積極的に展開する必要があります。