世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

台湾、TPP加盟に前進

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、27日から13日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 仏露両大統領がモスクワで会談(7日)。北朝鮮の最高人民会議開催(67日)。台湾、日本食品の輸入解禁(8日)。露、ベラルーシと大規模演習(10日)。米、インド太平洋戦略を公表(11日)。米露首脳が電話会談(12日)、などです。

 今回は、台湾のTPP(環太平洋パートナーシップ)協定加盟に向けた動きを説明します。

 台湾当局は28日、「日本食品の輸入解禁」を発表しました。20113月の福島第一原子力発電所事故以降続けてきた福島など日本の5県産食品の輸入禁止措置を解除する方針を固めたのです。

 台湾は福島第一原発事故の発生後、福島、千葉、栃木、茨城、群馬の5県産の食品の輸入禁止を決定。2015年には、5県産以外の食品にも産地証明書の添付を義務化するなど、日本産食品への規則を強化しました。

 台湾の蔡英文政権は2016年に発足しました。それ以来、5県産食品の輸入解禁を検討してきたのですが、野党、中国国民党の強い反対などを受け実現できなかったのです。

 福島第一原発事故に伴う各国の日本食品の輸規制は台湾だけではありません。農水省によれば、昨年10月時点で14カ国・地域が何らかの規制を継続しています。しかし、特に台湾や中国、韓国の禁輸措置は厳しいのです。

 台湾の解禁の動きは、昨年12月、成長促進剤を飼料に使った米国産豚肉輸入の是非を問う住民投票で、同様に国民党が反対運動を展開したにもかかわらず輸入賛成が多数となったことが背景の一つなのですが、なんといっても昨年9月、中国に続く形でTPPへの加盟を申請したことが挙げられます。

 加盟に向けては福島県産などの輸入禁止問題の解決が課題になるとも指摘され、蔡政権は昨年末から解禁に向けて準備を重ねてきました。実施に当たっては厳しい検査を行うなど条件が付く可能性もあります。

 政権与党の民主進歩党幹部は、解禁がTPP加盟交渉への弾みになる期待も念頭に、「台湾は国際社会に向け大きな一歩を踏み出す」と強調しています。
 TPPは加盟国に食品の安全確保について、科学的な根拠に基づく措置とすることを求めているのです。

 台湾のTPPへの加盟申請は、中国の6日遅れでした。中台が加盟を競い合う構図になっていますが、TPPへの参加は全加盟国の同意が必要なのです。もし中国が先に加盟すれば、台湾の加盟に反対するのは明らかであり、台湾当局は、中国の先行加盟は「台湾にとってリスクとなる」と強い警戒心を示していたのです。

 台湾は、今年1月に発効したRCEP(地域的な包括的経済連携)協定に参加を望んだのですが、参加できませんでした。中国の影響力もあり、台湾が自由貿易協定を結ぶことは容易ではないのです。

 安倍晋三元総理は安倍派の会合で、台湾が輸入禁止措置解除を決めた旨、蔡英文総統から事前に連絡があったことを話しました。それは、解除決定公表の約1週間前だったとのことでした。
 安倍氏は蔡氏に謝意を伝え、「TPP参加へ大きなハードルを越えましたね」と激励したといいます。台湾がTPP加盟に向けて大きく前進することになりました。