世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

日米首脳会談の裏側

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、1月17日から23日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 北朝鮮が戦術誘導弾を試射(17日)。米ロ、対面で外相会談開催(18日)。金正恩総書記、ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射や核実験再開を示唆(19日)。日米テレビ首脳会談開催(21日)。沖縄県・名護市長選挙で政権与党推薦の現職再選(23日)、などです。

 今回は、日米首脳会談を取り上げます。
 岸田首相は昨年10月の就任以来、できるだけ早い時期の訪米に意欲を示してきましたが実現できませんでした。米政権が意図的に設定を避けているのではなど、さまざまな臆測が飛び交っていました。

 しかしバイデン米大統領は、大型歳出法案を巡る党内対立を抱えて調整が難航し、新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の感染が一気に広がるなど、対応に追われており、ホワイトハウスもバイデン氏の感染に神経をとがらせているのが実情でした。

 岸田首相としては、実現したテレビ会談形式を通じながらも対面会談実現に向けた糸口を探ろうとしたと思いますが、難しかったようです。
 このまま対面会談が実現しない状況が続けば中国などに誤ったメッセージを与えることになる可能性があることも考慮しておく必要があるでしょう。

 首脳会談は、予定時間(1時間ほど)を大きく超える80分間でした。香港や中国の新疆(シンチャン)ウイグル自治区の人権状況について「深刻な懸念」を共有し、北京冬季五輪開幕を前に、改めて人権状況の改善を迫る内容となりました。

 上記の内容を含む会談のポイントを挙げておきます。

① 外務・経済担当閣僚の協議枠組み「2プラス2」を新設する。
② バイデン大統領が今春に来日し、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」首脳会合を日本で開催する。
③ 岸田首相は「敵基地攻撃能力」の保有検討を含め、防衛力を抜本的に強化すると伝達。
④「核兵器なき世界」実現で連携する。
⑤ 日米同盟を強化し、「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進して中国への懸念を共有する、などです。

 ①については、今後日米で、自由貿易と経済安保を両立させるための国際ルール作りに取り組むことや、米国が「インド太平洋地域での新たな経済枠組み」の新設を目指していることなどが議論内容になります。

 ③については、バイデン氏が米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条が沖縄県・尖閣諸島に適用されると言及し、岸田首相は日本の防衛力の抜本的強化を表明し、国家安全保障戦略など3文書を年内に改定すると伝えました。さらに、「敵基地攻撃能力」の保有も選択肢の一つとして検討していると伝達したのです。

 ほかに、北朝鮮による日本人拉致問題の早期解決や岸田首相が提唱する「新しい資本主義」へのバイデン氏の賛同など、終始良い雰囲気の会談だったといわれています。

 しかしこの会談を手放しで評価できないのは、米国内のバイデン政権の支持率低迷です。日米協力の進展を不安視する声も出ているほどであり、11月の中間選挙結果ではさらに弱体化する可能性があります。

 わが国の外交、安保、経済の基軸は日米関係ですが、変化に備えることも必要になってきています。