世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

ロシアのウクライナ侵攻近し

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、1月3日から9日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 核保有国5カ国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)共同声明を発表(3日)。米独外相会談 ウクライナ紛争への対応(5日)。北朝鮮、「極超音速弾道ミサイル」を発射(5日)。世界のコロナ感染3億人超 /米集計(7日)。

 ロシアのウクライナへの軍事侵攻の可能性が高まっています。プーチン大統領は「本気」でしょう。
 切迫する事態に対応するため、ドイツのベアボック外相が1月5日、ワシントンを訪問しブリンケン米国務長官と会談をしました。目的はもちろん、ウクライナを巡る紛争を回避するためです。
 昨年11月ごろからロシアの軍隊、およそ10万人がウクライナ国境付近に集結し始めました。

 会談後の記者会見でブリンケン氏は、「もしロシアが事態の悪化を選ぶなら、速やかに反応する。ウクライナに侵攻すれば、重大な結果に直面するだろう」と述べ、断固とした経済制裁で応じると警告したのです。

 経済制裁の柱は、ロシア産の天然ガスをドイツに送る新たなパイプライン「ノルドストリーム2」に関することであり、ブリンケン氏は「ガスを送ることは難しくなるだろう」と強調しました。
 ベアボック外相もまた、「ロシアの行動は明確な代償を払う」と述べ、米国との連携を重視する姿勢を示しました。ドイツは一つの覚悟を示したのです。

 脱原発と脱石炭の方針を固めているドイツにとって、天然ガスの安定輸入はエネルギー政策の生命線となっています。

 ショルツ首相は、中道左派のドイツ社会民主党出身。メルケル政権の財務相を務めました。「ノルドストリーム2」計画を進めたメルケル前首相の方針を引き継ぐ立場と見られてきました。ロシアがウクライナに侵攻した場合には、米国や中東、一部の欧州国家からの同計画に対する批判は避けられないでしょう。

 ベアボック外相は、計画に反対してきた緑の党の共同党首です。かつてドイツの公共放送ZDFで「現在の状態ではパイプラインは認可できない」と表明していました。

 米国のバイデン政権はこれまで、メルケル政権との関係修復を重視する立場から、ノルドストリーム2を事実上容認してきました。しかしここにきて方針転換したのです。それほどロシアの軍事行動が切迫したものであるということなのです。

 プーチン大統領は、2020年の憲法改正で「ロシアは1000年の歴史で統合され、神への理想と信仰を受け継いだ先祖の記憶を守る」と記しました。
 10世紀末、キリスト教(正教)を国教としたのはキエフを中心とした国家です。プーチン氏は、本気でウクライナ・キエフを取り戻すつもりであると見なければなりません。

 これらの動向は、バイデン政権の「弱さ」が誘発しているのです。「経済制裁」の警告は米国の力を示すには不十分です。経済的損失を覚悟してプーチン氏は「遺産」を残そうとするでしょう。