世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

RCEP協定と中国

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、昨年12月27日から今年1月2日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 NPT(核兵器不拡散条約)再検討会議、4度目の延期へ(2021年12月28日)。香港の民主派メディア『立場新聞』消滅(29日)。韓国・朴槿恵前大統領を「特赦」、当面入院続く(31日)。RCEP(地域的な包括的経済連携)協定が発効(2022年1月1日)。

 1月1日、日中韓やASEAN(東南アジア諸国連合)など15カ国が参加するRCEP協定が発効しました。

 域内人口約23億人、国内総生産は約26兆ドル、いずれも世界の約3割を占める巨大経済圏が動き出したのです。
 日本にとっては最大の貿易相手国である中国と3番目である韓国と初めて結ぶ自由貿易協定となります。

 1日に発効したのは、参加15カ国中、日本、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、オーストラリア、中国、ニュージーランドの10カ国です。残る5カ国は、韓国、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、マレーシアです。

 コロナ禍で落ち込んだ経済回復への期待が膨らみます。
 関税撤廃率は約91%で、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定の約99%よりは低いのですが、経済効果では米国が抜けたTPPを上回ると見られています。RCEPでは、国有企業改革、環境、労働問題の規定を盛り込んでいません。

 昨年11月5日、萩生田光一経済産業大臣は、閣議後の記者会見で「発効の確定を歓迎する。日本企業がRCEPから最大限の利益を得られるよう、周知をしっかりしていきたい」と述べました。

 RCEPの始動によって、政府試算では日本の実質国内総生産(GDP)が約15兆円押し上げられ、日本やオーストラリアが参加するTPPの約8兆円の2倍に相当するなど、日本の実質GDPを約2.7%押し上げる経済効果があると試算されています。経済界で期待が高まっています。

 一方、アジア・太平洋地域の通商分野で主導権を握りたい中国への警戒感も高まっています。

 RCEPはルール面で、企業の自由な活動を重視し、外資規制や政府介入を禁止・制限する内容を盛り込んでいます。外資企業に対する技術移転の要求や、電子取引を手掛ける企業にコンピューター設備の設置を要求することを禁じるなど、中国の不当な「慣行」を規制しています。

 しかし中国がルールに従うかどうかは不透明なのです。日豪などは今後、RCEPの中で中国を巡って難しいかじ取りを迫られることになるでしょう。
 中国にとってRCEPは、米欧による対中包囲網を破り、この地域の通商分野で主導権を握る上で戦略的な意味を持っています。

 さらに中国は次を見据えた布石も打ってきています。
 昨年9月には日豪など11カ国によるTPP、11月1日にはシンガポール、ニュージーランド、チリの3カ国によるデジタル経済連携協定(DEPA)への加盟を申請しています。「米国不在」のうちに影響力拡大を目指す野心が透けて見えます。

 また、RCEPにはTPPのような国有企業改革や労働、環境分野の明確な規定もありません。一方で、発効から5年ごとに協定を見直す規定があります。
 早々に改善に向けた検討を始めるべきでしょう。