愛の知恵袋 12
過ぎたるは及ばざるがごとし

(APTF『真の家庭』より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

親切の押し売り
 ある日、一人の婦人から電話をいただきました。Aさんは近所のBさんに悩みを打ち明けたそうです。

 「私ってどうも要領が悪いみたい」
 「あら、どういうこと?」
 「子供のしつけがうまくいかないの。もう一つは、家の片付けや炊事がうまくできないのよ…」
 「あーら、そう? それなら私に任せといて。そういうことなら、ばっちり勉強しているから」
 翌日から、Bさんは子供の教育のしかたから、家の片付け、料理、洗濯のしかたまで、親切にアドバイスをしてくれるようになりました。毎日のように家にきて、事細かに「これはだめよ」「あれをしなさい」と注意をしてくれます。

 最初はありがたいと思っていたAさんですが、日が経つにつれてだんだん重荷になってきました。 「子供は○○中学校に入れるといいわ」「塾は××塾に絶対入れるべきよ」「そんな無駄な買い物をしちゃだめ」「冷房なんか、まだ早いわよ」「お風呂の水は三分の一で十分」「包丁セットは△△社のが絶対よ」という具合で、ほとほと疲れてしまい、「もう結構です」と言いたいが、断りにくい雰囲気があって困っているということでした。

▲写真はイメージです

夫に口うるさい妻
 同様なことが夫婦の間でも、起きることがあります。会社員のCさんは「とにかくうちの家内は、口うるさくてうんざりしてしまいます」と嘆いていました。

 夫が家に帰ると、まず開口一番、「あなた、手を洗った? うがいはした?」と聞かれます。背広を脱いでイスの上に置くと、「ちゃんとハンガーに掛けて!」。カバンをソファにポンと置くと、「ちゃんと書斎に持ってってね!」。靴下を脱いだら、「そんなところに置かないで、洗濯場に持っていって!」という具合で、以後、彼が何か体を動かすたびに後ろからポンポンと叱咤の声が飛んできます。奥さんは「夫も子供もちゃんとしつけをしなくちゃ」と思っているようですが、このようなタイプを私は「婦人警官型」と呼んでいます。

 もうひとつのタイプがあります。

 Dさんの奥さんは帰ってくるとまず、「あら、玄関の電気つけっ放しじゃない。つけたのは誰?」。台所に入ると、「ここに湯飲み置きっ放し…誰? お父さんじゃないの?」「ゴミが分別されてないわ、これ入れたの誰? ○○君でしょう?」 やがて居間に入ってくると、「誰? ここに置いてあったリモコン持っていったのは」「窓があいてるじゃないの。誰? 開けっ放しにしたのは」という具合だそうです。奥さんにしてみれば、「本当にしょうがないんだから」と言いたい気持ちなのは分かりますが、夫や子供にとってはおもしろくありません。このようなタイプはさしずめ「刑事型」とでも言えそうです。いつも「犯人捜し」です。

子供への過保護と過干渉
 Eさんの家庭では、母親が特に教育熱心でした。幼稚園の時から習い事をさせ、小学校では塾に通わせ、毎日の宿題はそばに付き添って見てあげます。夏休みの課題の作文はチェックして修正し、図画と工作の仕上げはお母さん。中学校では、テレビは決めた番組だけ、ゲームは30分だけ、栄養が偏らないようにと食べ物は細かく注意します。高校になると、勉強に専念できるように子供部屋のベッドと机とイスを新調しました。もちろん、家事の手伝いなど一切させません。しかし、どういうわけか息子は学校に行くのを嫌がるようになり、朝になっても部屋から出てこなくなりました。それからは「あなたの為を思って言っているのよ!」と、母親はいっそう口うるさくガミガミ叱るようになりましたが、結局、子供は不登校になり引きこもってしまいました。

 これも同じことなのでしょう。親切も度が過ぎれば迷惑になるように、愛情といっても、夫や子供の人格や自主性を尊重することを忘れると、過保護や過干渉になって逆効果になってしまいます。なにごとも”過ぎたるは、なお及ばざるがごとし”。古人が”中庸の道”を説いたのも、なるほどとうなずけます。