青少年事情と教育を考える 184
「こども家庭庁」への変更と期待される役割

ナビゲーター:中田 孝誠

 今年の子供関連政策で最も話題になったテーマの一つが「こども庁」でした。

 先日、政府がこの組織の名称を「こども家庭庁」に変更し、2023年度に創設することが閣議決定されました。
 自民党有志による当初の構想では「こども家庭庁」の名称が使われていましたが、その後、家庭が外れて「こども庁」に変更されていました。それが元に戻ったわけです。

 その理由は、妊娠から出産、成人まで、一貫して家庭を支援するためだとされています。
 ちなみに10月に行われた衆議院選挙でも、自民党は「支援を必要とする子育て世帯に対し、妊娠・出産から子育てまで、全ての親子を対象に一体的に支援する拠点を全市町村に創設し、子供や家庭の支援体制を強化します」と公約にうたっていました。

 今回の名称変更で、子供はもちろん家庭全体を支えるという方向性が明確にされたと言えます。

 こども家庭庁は首相直属の機関となり、各府省が行ってきた子供政策を一元的に集約し、子供政策の大綱を作ります。また、子供や家庭の状況と支援の内容をデータベース化し、幼稚園・保育園・認定こども園が共通の教育・保育を受けられるように基準を策定、子供の性被害を防ぐためのデータベース、いじめ対策やヤングケアラー支援などを行うことになっています。

 ところで、名称変更前の議論では、子供の人権が強調される一方で家庭の価値を否定的に捉える意見が見られ、それに対して児童の権利条約を歪曲して解釈しているといった批判もありました。

 今回の名称変更では逆に、伝統的家庭観を押し付けるもの、児童虐待の被害児童は「家庭」に苦しんできた、といった反対の声が上がっています。
 ここには、これまで「家庭の役割」に十分に目を向けて議論してこなかった日本社会の問題もあるように感じます。

 ただ今後は、子供が幸福に育つためにどのような社会を目指していくのか、その政策の議論を進めていくことが重要になるはずです。

 その際に考えるべきは、子供に関わる課題は子供にだけ焦点を当てても解決できないことが多いということです。

 例えば虐待を受けている子供を救った後、その子が育つ環境、その子の福祉を最大限保護する環境をどのようにつくるかが次の課題になります。

 すでに専門家の間では、育児で孤立して子供を虐待してしまう親を救済して立ち直らせる支援や、機能不全に陥った家族成員全体の関係に注目した家族療法のように、親と家族に焦点を当てた支援が行われ、一定の効果を上げています(友田明美『親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる』他)。

 そう考えると、家族を総合的に支援する政策、家族が持つ本来の機能を強化していくことが、子供たちの幸福と社会の安定につながると言えるでしょう。そうした意味で今回の名称変更は、家庭の役割を示しているのではないでしょうか。

 こども家庭庁には、こうした政策の推進役を期待したいところです。