夫婦愛を育む 174
「生きる力」を身に付ける

ナビゲーター:橘 幸世

 「まるで一昔前の学園ドラマに出てくる熱血教師みたい…!」

 今年125日放送のNHK『逆転人生』。数カ月遅れで録画再生ボタンを押した私の心は深く揺さぶられました。

 「ここまでする先生が現実にいるんだ! しかも公立高校の先生で!」
 教育の端っこにかする程度ながら関わってきた私は驚きを禁じ得ませんでした。

 同番組では大阪府立西成高校の先生と生徒たちの挑戦が紹介されました。
 西成地区は古くから非正規労働者や貧困家庭が多く、親から子へと貧しさが受け継がれる「貧困の連鎖」が問題になってきました。

 「どうせ自分なんか…」と夢を持てず、学びへの意欲を失ってしまう子供も少なくありません。寝起きのまま登校する生徒や喫煙を注意されても教師を無視する生徒など、10数年前の同校は非行が多く中退者は年間100人近くに上る、絶望的な「教育困難校」でした。

 2006年、新しい校長の下で学校立て直しのプロジェクトチームが発足します。年間600件もの家庭訪問を行い、生徒や家庭の実態調査をしました。
 シングルマザー家庭も少なくありません。育児放棄された生徒は自分に価値があるとは感じられず、日々を生きるだけで精いっぱいでした。

 先生たちはそんな彼らの現実に向き合い、学業以前の、人生の問題から向き合ったのです。親がどうであろうと周りがどうであろうと自分で生きる力を身に付けて、社会に送り出したいと。

 まず生徒に自分の置かれている状況を客観的に理解させるため「反貧困学習」を始めました。

 ネットカフェ難民、シングルマザー家庭、ワーキングプア、日雇い派遣などの事例を授業で取り上げると、自分に当てはまる内容に生徒たちは真剣に耳を傾け始めます。
 そして、それを打開するには実際どうしたらいいのかを考えさせ、調べさせて話し合わさせます。社会的弱者が泣き寝入りせずに済むような法律やシステムの知識を授けるのです。

 それだけではありません。生きるための知識を授けることに加えて、先生たちはさらに一歩踏み込んで、生徒一人一人を具体的にサポートしました。

 親が行き先を告げずに出ていき一人残された生徒がいました。施設に入れば校区から外れるので中退となります。彼の将来を案じて、中退しなくて済む道を制度の枠を超えてでも開こうと奔走しました。加えて、彼がきちんと学校に通えるよう毎朝自前の朝ご飯を届けた先生もいます。本当に感服しました。

 2012年からは就職支援にも力を入れて、地域企業数百社を教師が訪問。就職希望者99人全員の就職内定を実現します。
 その骨折りにもただただ頭が下がります。就職内定の知らせを受けて、先生と生徒が共に喜ぶ姿はとても感動的でした。

 かつては教師に対して不信感しかなかった生徒たちの姿はもうありません。就職率100%は今も途切れることなく続いていて、西成高校は希望の高校へと生まれ変わったのです。

 「先生たちが“与える”ことから始めている」と番組ゲストが言っていましたが、まさしく教師としての通常業務の域を超えて、生徒たちに投入し抜いたのです。
  「与えること」「見返りを求めず投入すること」で人は生かされるのだと改めて思いました。

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