夫婦愛を育む 173
スイートスイート・メモリー

ナビゲーター:橘 幸世

 先日珍しく午前3時くらいまで寝つけませんでした。夜に電話が数本かかってきていろいろ話した影響でしょう。こんなに眠れないのはいつ以来だろうなどと考えていると、文字どおり一晩中眠れなかった時のことを思い出しました。

 もう十数年も前になりますが、歴史文化を学ぶ遠方の団体から年5回の講演会の一枠に声が掛かりました。他の枠は大学の先生方が担当するような集まりで、数百人入る立派な会場で行われます。

 それまでは地元で知人・友人相手に小さな勉強会をしていただけの私がいきなりそんな場に立つ?! 臆さないと言えばうそになりますが、天から降りてきた機会を捨ててはいけないと引き受けました。

 本番が1年先というのもあったのかもしれません。ところがその後体に問題が見つかり投薬治療を受けることになりました。穴を空けるわけにはいかず、治療の真っただ中に飛行機で開催地に飛びました。

 ホテルの部屋でリハーサルをし、時間を計り外的準備は完了。けれど肉体的には出発前から絶不調です。少しでも睡眠をとって体調を整えようとしますが、緊張で眠れません。とうとう朝になってしまい体はまるで鉛のよう。眠れなかったことが不安に拍車を掛け、ベッドに横になりながら、「どうしよう~」と追い詰められた心境でした。

 その時ふと、各地を講演で回っておられた真のお母様を思い出しました。
 「お母様もお体が大変だった時があったに違いない。それでも毎回笑顔で皆の前に立たれたんだ!」。そう思うと熱い涙が溢(あふ)れだしました。ひとしきり泣くと、なんと体がすっかり元気になっていたのです。
 心身ともに癒やされ、力を頂いた私は、ハイスピリットで会場に向かいました。

 会場に着くと、会の責任者のかたから「講演の後に本のサイン会を予定しています」と言われました。穏やかに「分かりました」と言ったものの、内心は「講演がつまらなくて誰も並ばなかったらどうしよう? まるで審判を受けるようだ」とドキドキです。

 何とか講演をこなし、準備された場所に行くと、主催者側が取り寄せておいた本が足らないほどに並んでくださっていました。疲労もとうにピークを越え半ばボ~っとした状態で、一人一人のかたと言葉を交わしサインをこなしました。

 全てが終わり、ホテルに戻ってベッドに倒れこみました。元気な人なら飛行機で日帰りでこなせた仕事ですが、当時の私は前後2泊するしかありませんでした。

 どうしようもないほどに疲れてベッドで横になっていると、今度は真のお父様が思い出されました。お疲れの中休む時間を割いて、日本の兄弟姉妹のために何枚もの色紙にサインをし続けられたお姿が浮かんできたのです。
 再び、熱い涙が溢れでました。そして再び、私の体は癒やされたのです。夕食をおいしく食べることができ、わずかですが観光までできました。

 私の講演デビューは最低の状態からの一見孤独で大きなチャレンジでしたが、ふたを開けてみれば、幼い次元ながらお二人の歩みの一片を追体験させていただき、愛で包まれた、忘れ難い思い出となりました。その土地すらも私の中では今なお親しさを覚える特別な場所となっています。

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