信仰と「哲学」82
コロナ禍世界の哲学(6)
マルクス・ガブリエルの哲学

神保 房雄

 「信仰と『哲学』」は、神保房雄という一人の男性が信仰を通じて「悩みの哲学」から「希望の哲学」へとたどる、人生の道のりを証しするお話です。同連載は、隔週、月曜日配信予定です。

 ドイツの哲学者マルクス・ガブリエル、41歳。4、5年前から時々その名前を書店で目にし、人々が語るのを耳にしながらも、どうも「マルクス」という名前に反応して、まともに向き合いませんでした。

 しかし、コロナ禍の世界をどのように捉え、どう生きるべきかというテーマで現実問題を解決するための「哲学」を発信し続けており、学んでみることにしました。
 前回まで紹介してきた斎藤幸平氏らとは異なる立場の主張です。

 41歳という年齢も魅力です。今後、長らく世界に影響を与え続けていくだろうという期待を持つことができます。これからが楽しみです。飾らない率直な姿勢、たとえ正反対の政治的立場であっても語り合うことの大切さを強調しています。

 次第に好印象を持つようになりました。といっても受け入れ難い提案もありますし、読んでみたマルクス・ガブリエルの著作はまだ5、6冊程度ですので、彼の哲学の入り口に立ってみたという段階です。

▲マルクス・ガブリエル(ウィキペディアより)

 マルクスは、1980年生まれのドイツの哲学者です。史上最年少の29歳で200年以上の伝統を誇るボン大学の正教授に就任しました。西洋哲学の伝統に根ざしつつ、「新しい実在論」を提唱しました。現在、世界で最も注目される哲学者の一人です。

 彼の哲学の断片を著作の「見出し」などから紹介してみます。
 「唯物主義は世界を滅ぼす」「科学はアヘン」「『神聖さ』が生じるとき」「今こそ『道徳哲学』による啓蒙主義を再構築する時」「共同体主義がネオリベラリズムにとって代わる時代が来る」「新たな経済活動のつながり―倫理資本主義の未来」などです。

 マルクスは『つながり過ぎた世界の先に』(PHP新書)の中で、肉親の死などの危機に直面したとき、人は神や神聖なもの(神聖性)に触れたと感じる体験をすることがあるとし、それは自分の哲学では、「神聖性とは、自分が『全体』とつながる経験であり、人間の限りなく複雑な感覚が感じ取る現実に他ならないのです。それが神の実体なのです」(194ページ)と述べています。

 そして特異な体験を紹介しています。
 彼の父親が亡くなる一週間前に、父親と約束をしたのです。それは、もし肉体の死後も生命があるのなら、メッセージを送ってほしいというものでした。夢ではなく、メールを使おうと合意したというのです。その時、父親は彼に、死んでからメールを送ると約束したのです。

 葬儀の当日、火葬された父の遺骨を見たその瞬間、メールの着信音が鳴り響いたのです。内容は園芸(父親は園芸をしていた)と不死についてのメールだったというのです。マルクスはこのメール発信者の正体は調べませんでした。その後、マルクスは墓地を訪ねていなかったのですが、マルクスの奥さんが墓地を訪ね、着いた瞬間にまたメールが同じ発信者からマルクスに届きました。

 マルクス・ガブリエルはこのような体験を大切にする(ばかばかしいと否定しない)哲学者で、行き着く先の世界として共同体を模索しています。
 数回にわたって紹介したいと思います。