世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

重なる? アフガンと朝鮮半島の動向

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、8月16日から22日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米韓合同軍事演習開始(16日)。米大統領支持率〈ロイター〉、就任以来最低に(16日)。アフガン各地でタリバン抗議デモ(19日)。香港に「反外国制裁法」(制裁に対抗)(20日)。ハリス米副大統領、東南アジア歴訪へ(20日から)。アフガン撤退延長も検討~米大統領、国民退避支援発表(22日)、などです。

 今年に入って2回目の米韓合同軍事演習が8月16日から始まりました。期間は26日までとなっています。

 軍事演習の内容はコンピューターシミュレーションの指揮所訓練であり、実際の兵力を動員した起動訓練ではありません。
 しかし演習に先立つ対応訓練を米韓両軍が行った10日、金正恩総書記の妹であり党副部長の金与正氏は、「代価を支払うことになる自滅的行動だ」と強く反発しました。そして「米国の軍事的威嚇に対処するための絶対的な抑止力と、強力な先制攻撃能力をさらに強化する」と表明したのです。
 今後、何らかの動きがあるものと思われます。

 7月27日、北朝鮮は約13カ月ぶりに韓国当局との間で電話やファクスをやり取りする直通通話線を復旧させていました。
 今年4月末、文在寅大統領は金総書記に親書を送り、その後数回の親書交換で「関係改善に合意」しました。その成果が「直通通話線の復旧」だったのです。

 この出来事は南北関係重視の文政権にとっては大ニュースとして扱われました。
 韓国政府は発表直前に「本日、午前11時に重大発表がある」と予告までしたのです。しかしこの直通通話線は、たった2週間で北朝鮮より再び一方的に遮断されてしまいました。

 与正氏の怒りの表明は8月1日から始まっていました。
 「(米韓合同)演習が予定どおり強行されるという気分の悪い話を聞き続けている」「再び敵対的な戦争演習をするのか注視する」と演習中止を迫りました。そして前述の10日の談話が発表されました。

 談話の中で、演習開始を「背信的振る舞い」と非難する部分がありました。
 与正氏が「背信的な振る舞い」と述べたことについて、文氏が親書の中で合同軍事演習の縮小や中止に関し何らかの言及をしていたのでは、との見方も出ています。
 北朝鮮で「背信者」は、国家反逆者を指しています。「背信的」との非難が文氏に向けられたのです。

 8月1日と10日の与正氏談話の後、文政権中枢から演習延期や中止を求める発言が相次ぎました。
 統一省高官は「延期が望ましい」、朴智元国家情報院院長は国会で「柔軟に対応すべきだ」と延期論、国立外交院の次期院長は演習無用論、大統領の諮問機関「民主平和統一諮問会議」丁世鉉首席副議長は「文大統領は演習を中止すべき」との提案をしたのです。さらに与党系74人が演習延期要求の共同声明に署名し政府に延期を求めました。

 元在韓米軍司令官らは、韓国政府要人や与党議員が演習延期論などを展開したことを問題視し、「合同軍事演習を政治争点化することは、米韓同盟に影響を及ぼしかねない」(バーウェル・ベル元在韓米軍司令官)などと、米メディアに重大な懸念を表明しているのです。

 アフガンからの米軍撤退過程で起こった「政府軍の敗走」とイスラム武装勢力タリバンによる首都カブール占拠を、金正恩総書記はどのように見ているのでしょうか。
 今後の動向が注目されます。