世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

タリバン勝利宣言、アフガン政権崩壊へ

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、8月9日から15日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米韓合同軍事演習開始、北朝鮮が批判(10日)。WHO(世界保健機関)、中国に「生データ」公開要求(12日)。文在寅大統領、「光復節」で演説(15日)。タリバン勝利宣言、アフガン政権事実上の崩壊(15日)、などです。

 今回も、アフガン問題です。
 ガニ大統領は8月15日、隣国タジキスタンに逃れ、Facebook(フェイスブック)で、「流血の事態を避けるために国を出た。タリバンが勝利した」と述べました。
 一方、タリバンのトップ、バラダル師は同日、首都カブールを制圧したことに関連してビデオ声明を発表。「主要都市が1週間で陥落した。予想外に迅速で比類のない勝利だ」との勝利宣言を発表し、「人々の期待に応え、課題に取り組む」と述べました。

 さらにタリバンのムハンマド・ナイーム報道担当者も、カタールの衛星放送局アルジャジーラに対して「戦争は終結した」「私たちは、追い求めてきた国家の自由と人々の独立を手に入れた」とし、アフガン政府要人の安全を保障し、対話していく用意があると説明しています。
 そして「私たちは誰かを傷つけることを望んでいない。誰かを標的にするために私たちの国土を使わせることは許さない」とも強調し、「外国勢力もアフガニスタンで同じ過ちを繰り返すことはしないと考えている」と語りましたが、今後の展開は不透明です。

 タリバンの首都カブール進攻がこれほど早く進むことは米政権も想定していませんでした。
 ブリンケン米国務長官は15日、現地の大使館機能をカブールの国際空港内に移したことを明らかにし、大使館員らを72時間以内に撤収させる方針であると述べました。

 米政府はこれまで、米軍が8月末に撤退した後もカブールに大使館を残すことを繰り返し明言していました。急速な情勢悪化に伴ない撤収を早めているのです。

 ブリンケン氏はまた、「20年前にアフガニスタンに向かい、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)の犯人に対抗するのが目的だった。その目的は達成された。さらに5年、10年と駐留を続けることは国益に資することではない」と、米軍撤退の判断は正しかったことを強調しました。

 バイデン大統領は14日、声明で、反政府勢力タリバン代表に対して「アフガン駐在の米要員を危険にさらす行動に及べば、直ちに米軍の強力な反撃に遭う」と警告したことを明らかにしています。
 そして「駐留を1年や5年延ばしたところで、アフガン政府軍が自国を掌握できなければ何も変わらない」と述べ、「内戦中の他国に米軍を無期限で駐留させることは、受け入れられない」と強調、「私はこの戦争を5人目に渡すことはしない」として、改めて撤退方針に変わりがないことを明言したのです。

 しかし混乱は内外に広がっています。
 カブール市内は緊迫し、空港や銀行に市民らが殺到しパニック状態です。国際的には、タリバン政権の承認問題が浮上しています。英ジョンソン首相は15日、NATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長と電話で会談し、最高意思決定機関である北大西洋理事会(NAC)を早期に開くよう要請しました。

 ジョンソン氏は「アフガンに新政権ができるのは間違いない」とし、その上で西側諸国がタリバン政権を「尚早に認めないようにすべきだ」との考えを示したのです。

 今後、女性への差別の広がりやタリバン政権が国際テロリストの温床にならないのか。中国、ロシア、イランの対米政策に利用されないのかなど、最大限の関心を持ってアフガンの動向を見ていかなければなりません。