世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

タリバン復権の勢い~懸念される中露の接近

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、8月2日から8月8日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 新型コロナウイルス「武漢から流出」米共和党が報告書提出(2日)。米政権、アフガン協力者受け入れ方針公表(2日)。米政権、台湾への武器売却承認、発足後初(4日)。米大統領、英首相、仏大統領など「日本に感謝」五輪閉幕で(8日)。タリバン、アフガンの5州都を制圧(8日)、などです。

 アフガン(アフガニスタン=イスラム共和国、人口約3900万人)の旧支配勢力であるタリバン(イスラム原理主義勢力)が周辺州で攻勢をかけ、復権の勢いを見せています。

 8月3日に首都カブールの国防相代行の公邸襲撃、4日、アフガン政府高官らへの「報復開始」宣言、6日、南西部ニムルズ州の州都ザランジを制圧、同日、政府の情報発信を担当する「メディア情報センター」責任者ダワハン・ミナパル氏を襲撃殺害、7日、北部ジョズジャン州の州都シェベルガンを制圧、そして8日に北部のクンドゥズ州の州都クンドゥズを制圧したのです。全国に400以上ある地区の半分以上を支配下に治めました。

 タリバンはかつて政権を握っていました。イスラム法を厳格に解釈した統治が特徴です。今回の攻勢でも支配下に治めた女学校を焼き払い、ベールで覆う服の着用を女性に義務付けたりしています。戦闘員は約10万人規模、小銃やロケット弾による攻撃が主体です。

 タリバンは、2001年の米同時多発テロの首謀者をかくまっていたとして米軍の攻撃を受けて崩壊しました。しかしその後も次第に勢力を回復し、アルカイダとは今も連携を取っているといわれています。

 基本的には、米軍から軍用機などの提供を受ける政府軍の兵力約30万人には及ばないと見られています。そのため、首都カブールの攻略は後回しにし、当面は地方都市を復権への拠点にする狙いがあると見られるのです。

 積極的攻勢の背景には、アフガンからの米軍撤収計画があります。
 2020年2月から米国はタリバンと交渉を始めていましたが、バイデン政権は4月、8月末の完全撤収の方針を表明したのです。以後、タリバンは「勝利」を喧伝(けんでん)し支配地域を急拡大する行動に出ました。

 米国は撤収後、アフガン政府とタリバンが協力し、新政権を発足させるシナリオを描いていました。
 「同時テロ20年の節目に米史上最長の戦争を終わらせる」という米政権のメッセージは、国内の支持は得られても、中長期的国益にかなうのか、再考が迫られています。今後、米軍再配置も選択肢に入れておく必要が出てくるでしょう。

 さらに懸念されるのが、中・露のタリバン接近です。
 上海協力機構は7月中旬の外相会議で「アフガン人主導の対話の重要性」を強調し、米国の関与を排除するような姿勢を示しました。
 中露がタリバンに対する影響力を米国との覇権争いの道具にする可能性も否定できません。
 今後の動向に注目したいと思います。