世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米中外交高官会談、異常な外交威圧は「弱さ」の表れ

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、7月26日から8月1日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米国務省シャーマン副長官、王毅外相と会談(7月26日)。韓国と北朝鮮、関係改善で合意(27日)。北・金総書記、「コロナは戦争に劣らない試練」と演説(27日)。サモア新首相、中国支援の港湾開発の中止を正式表明(28日)。船攻撃、イスラエルがイラン非難(30日)、などです。

 米国務省のウェンディ・シャーマン副長官が7月26日、中国外務省次官・謝鋒氏と、続いて王毅外相と会談しました。
 新疆(シンチャン)ウイグル自治区、香港、台湾など米中間の懸案問題を議論しましたが、隔たりは埋まりませんでした。

 今回の会談は、シャーマン氏のアジア歴訪の一環として、中国に対して事前に打診していたものです。

 打診を受けた中国側は、当初、会談には謝鋒外務次官が参加すると伝えてきたのです。謝氏は中国外務省のナンバー8であり、米国務省のナンバー2のシャーマン氏にはふさわしくありません。米国側は、それならば、ということでキャンセルしました。

 その後、中国は一転して王氏が会談に出ることを約束してきました。結局、中国側の譲歩によって外交上は異例の慌ただしさの中で会談が準備されました。

 しかし中国外務省は会談直前の23日、米国のロス前商務長官らに制裁を科すことを発表しました。6月に施行した反外国制裁法に基づくものであると述べていますが、明らかな「報復」です。

 今年3月のアラスカ・アンカレッジで行われた米中外交トップ会談の前日、米国は中国国有通信会社の事業免許取り消しに向けた手続きを開始するという、事実上の対中経済制裁に踏み切ったのです。中国にとっては屈辱的な扱いと言えますが、会談を拒否することはありませんでした。

 26日朝、まずシャーマン・謝鋒会談が行われました。
 謝氏はそこで、外交の場ではほとんどあり得ないような激しい言葉を発してアメリカを厳しく糾弾しました。

 米中対立の原因はアメリカの「敵視政策」にある。「中国などに対し悪事をやり尽くして、良いことは独り占めにしようとする。世の中にそんな理屈はあり得るのか」と批判したのです。

 なお、「悪事をやり尽くす」は中国の原文では「壊事作尽」。中国人なら誰でも分かるのですが、これこそ相手に対する最大限の罵倒の一つだというのです。

 その日(26日)の午後、王毅外相との会談が行われ、シャーマン氏は、「米中の厳しい競争を歓迎する、米国として競争力を強化する、しかし中国との紛争は望まない、米中関係の『責任ある管理』の在り方を協議したい」と述べました。

 一方、王毅氏は、今後両国が衝突か改善に向かうかは米国側の判断であるとし、関係改善の絶対的条件として「死守する三つのレッドライン」を提示しました。

① 中国の国家主権を侵犯したり、領土保全を損なってはならない

② 中国の発展を妨害してはならない(制裁関税や技術封鎖を持ち出して)

③ アメリカは中国の特色ある社会主義の道と制度に挑戦したりその転覆を試みたりしてはならない

 中国は、最優先の「核心的利益」が中国共産党一党独裁体制の維持であることを明示したのです。

 なお、謝鋒氏が会談でシャーマン氏に手渡した「やめてほしいことのリスト」が明らかになっています。
 それは中国共産党員とその親族に対する入国ビザ制限を無条件に撤回することでした。党幹部と党員およびその親族はアメリカへの入国を希望していることがよく分かります。

 アメリカが今後、引き続き中国共産党員とその親族に対する入国を制限すれば、党幹部とその親族たちの間に次第に動揺が広がり、それが政権安定を脅かす大きな不安要素の一つになる可能性があると見ることができます。

 中国外交の威圧は体制の「弱さ」の表れと見ることができるのです。